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ミステリー小説、書く!!!

ミステリー小説です。 毎週1回のペースで更新しますので、良かったら読んで感想をください。

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「不和の美」ー15


15

 街に酒屋は一軒しかなく、荒木義男邸の近所ということもあって、真田春也と古川栄太郎は最初にその酒屋へ向かった。

 店頭には販売機が並び、タバコの自販機もあった。

 入店するとアラームが数度鳴り響き、奥から酒屋独特の紺色の厚手前掛けを着衣した、50代と思われる、腹が出た色黒の店主が、せかせかと出てきて、

「はい、いらっしゃい」

 と、威勢よく2人に話しかけてきた。

 小さい町である。酒屋の店主も町の人間でない2人にすぐに気づいたのか、店の看板商品である地酒の棚の前に、半ば強引に2人を案内すると、土産品としての価値を2人へ弁舌に説くのだった。

「酒を買いに来たんじゃないんですよ。亡くなった荒木さんについて聞きに来たんです」

 単刀直入に話すことしかできない探偵である。

 事件の話はすぐに町の中でも噂になったのだろう、店主の目がそれまでになく、怪訝に細められた。

「おたくら、警察の人?」

 そう言いながら怪しげに見る店主はしかし内心では、警察官とは異なる雰囲気と、砕けた格好の探偵を、警察官と思ってはいない。

「新聞記者なら帰ってよ。」

 午後3時である。

 この時間までに数多くの記者が町に溢れていた。狭い町で発生した殺人事件。小さい、交通事故すらも起こらない町での殺人事件であるから、当然のことながらマスメディアは飛びついた。

 僅かな時間の間に、放送各局のテレビカメラが町に入り、新聞記者、カメラマンが普段は人通りもまばらな商店街をうろついていた。

 中には留守の家の裏へ回り、窓から民家を覗く者、交通量が少ないとは言え、商店街のど真ん中に脚立を置いてカメラで撮影する者など、協力的になれと言うほうが難しく、この酒屋に出入りした記者たちに、何度も同じ質問を問いかけられて、店主も苛立ちを隠せずにいた。

「そうじゃないんですよ。何度かこちらからお酒を買ったことがあるんですが、覚えていらっしゃらないですかねぇ」

 無礼な若造の言葉を取り繕うように、弁護士が顔を前へ突き出す。

 黒く塗ったように顔が焼けている店主が、思い出すかのように目を細くして弁護士の顔をよくよく見ていると、ハッとした様子で目を見開いた。

「古川さんかい? 荒木さんところによく来てた弁護士の」

「そうです。古川です」

 再び笑みを浮かべた店主は、残念そうに弁護士の手を取って握手する。

「とんだ災難だったね。誰がこんなことをしたのか。信じられないよ」

 店主が何度も弁護士の手を握って上下させるのを横で見ていた探偵はしかし、そうした労いの言葉などをここへ求めてはいなかった。

「記者の方が何度となく伺ったと思いますが、俺たちも事件を解決するために町の人に聞き込みをしているんです。協力を願います」

 というその表情には、申し訳なさそうな表情も、感情的な断片すらも見ることはできず、ただ機械的に自らが求める情報を引き出そうと、便宜上、口先だけで発言していた。

 店主が怪訝そうに若者を一瞥してから、古川弁護士を見る。

 その申し訳なさげな笑みに、店主は仕方がないな、とばかりに渋々、頷いた。

 間髪を入れずに探偵は弁護士との手も離れないうちに、質問を投げかけた。

「荒木義男氏という人はどういう人だったんですか?」

 上を見上げ少し考える店主は、少し話すのに戸惑いを抱えている様子だった。

「いいんですよ。真実を話してください」

 そう弁護士に促され、ようやく酒屋の店主は腕組みをして口を開いた。

「いい人とは必ずしも言えなかったねぇ。なんて言えばいいんだか、町でも孤立してるっていうのかなぁ。近所の集まりには出ないし、この辺で回してる回覧も見てるんだかどうだか、来ているヘルパーさんに回してもらってたみたいだし、あれだけ大きなお屋敷に住んでるだろう? あそこからほとんど姿を見せないんだから、こっちだって気味悪く思うのは当然だろう?」

 探偵はふと古川弁護士の横顔を見ると、自らの事でもないのに、申し訳なさそうに頭を下げていた。

 そんなことを気にする探偵でもなく、続けざまに質問を投げかけた。

「トラブルを抱えてるという噂などは聞いていませんか?」

 店主は今度、首を横に倒し、頷きながら考え込んだ。

「うーん、そういえば何年か前だったか金銭面でのトラブルがあったってのは聞いた覚えがあるなぁ」

「誰とですか?」

 間を置かず探偵はさらに引き出そうとする。

「この町のD建設の社長の伊美徹とだよ。なんでも会社の経営がうまくいってなくて、借金を頼みに来てたらしい。もちろん荒木さんのことだから、すぐに追い返されたらしいけど、あとあとで荒木さんを恨んでるって話してたらしいよ。まぁ、噂ですけどね」

 有力情報が探偵の脳内に石に刻まれた文字の如く、深く入り込み、それが興奮の度合いを高くしたのだろう、探偵の目は見開かれていた。

「犯行時間の早朝ですが、怪しい人を見かけませんでしたか?」

 探偵の口調は自然と口早になっていた。

「配達の準備をしてたけど、特に気づかなかったなぁ。そんな時間から外に出てる人間なんて滅多にみないからなぁ」

「配達ですか?」

「ああ、美咲ちゃんのところにだよ。毎朝早朝に届ける手はずになっててね」

 探偵は引っかかりをすぐに見つけると、そこを掘り下げた。

「犯行時刻、美咲さんは店に居たんですか?」

 これには店主も不機嫌な顔に豹変した。

「当たり前だろ! 美咲ちゃんを疑ってるのか!」

 そういうと店主は組んでいた腕を振り払い、手首をぶらぶらとさせた。

「帰ってくれ。もう話すことはない。商売の邪魔だよ」

 と、2人は追い返されるように店から出された。

「君って男は美咲さんまで疑っているのかね」

 古川が困った顔をすると、

「探偵ですからね。それよりもD建設へ向かいましょう。トラブルの具体的な情報が欲しいです」

 飄々と若い探偵は商店街を歩いて行く。

 弁護士は彼と聞き込みを終えた時、町の人間が全員、敵になっているかもしれないという考えに、溜息を漏らすのだった。





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プロフィール

HN:
富士島
年齢:
39
性別:
男性
誕生日:
1986/01/06
職業:
介護職
趣味:
小説、漫画、映画、PC、スマホ

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