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ミステリー小説、書く!!!

ミステリー小説です。 毎週1回のペースで更新しますので、良かったら読んで感想をください。

スキマ時間にはビジネス書を「聴く」。オーディオブックのFeBe

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「不和の美」ー16

16

 春だというのに風はまだ冷たかった。古川栄太郎は持病の腰痛が悪化してきたのか、歩きながら腰に手を添えている。

 けれどもそんな栄太郎の雰囲気になど微塵たりとも意識を配らせる素振りもなく、探偵、真田春也は見えてきた大きな看板を指さす。

「あれですね。犯行現場から50メートルというところでしょう」

 古川が辛そうに背にしていた道を振り返ると、現場となった豪邸の、3階までくっきり見えていた。

 そこには緑に白字のD建設会社の看板がでかでかと、通行人や車へアピールしていた。

 敷地内へ入ると、パワーショベルと型の古い泥だらけのトラックが停車して、複数の職人たちがヘルメットを被り、タバコの煙をのぼらせていた。

 妙な2人が現れたぞ、といわんばかりに探偵と弁護士の取り合わせに、職人独特の重たい視線が向けられた。

「社長は中ですか?」

 こうした場ですらも、平然とできるのが真田春也である。

 職人たちは少し間を置いて、アスファルトへタバコを投げ捨て、長靴のかかとで踏み潰すと、煙を吹きかけるように探偵めがけふく。

「記者なら帰んな。仕事のじゃまだ」

 重苦しい声色が若者を突き飛ばす。

 やはり町中に複数のマスメディアが流入してきたのだろう、町民たちは敏感になっているようだった。

「わたし達は記者でも、警察でもありません。亡くなった荒木さんの知人のものです。社長に生前の荒木氏の様子をお聞きしたくて訪ねて来たのですが、ご迷惑でしたら後日、日を改めますが」

 これが大人の対応とばかりに古川弁護士は探偵を一瞥した。

「弁護士か」

 と、不意に背後から顔を出した大柄の、黒く焼けた姿を表した男が、弁護士のバッジを見るなり、眉をひそめた。

「荒木さんの知り合いに弁護士がいるのは知ってる。中へ入んな」

 無愛想ながらそれがこの建設会社の社長なのがここで、2人の把握の範疇へ入った。

 そうなると若い探偵に遠慮は一切ない。社長のおおまたよりも素早く、事務所の扉を開けて中へ、ズカズカ入っていった。

 事務所の中には複数の事務員の女性がパソコンの前に座り、キーボードを叩く音、ペンで書き物をする音が鳴っていた。

 事務室の、ガラス扉が開く音を耳にして、全員が一斉に顔を上げる。

 若い男が立っているのを、一瞬見ては警戒心が眉の上に乗っていた。

 その後ろから社長の大きな影を見ると、事務員たちはそれぞれに、

「お疲れ様です」

 と、雇い主へ声を掛けた。

「お客だ。お茶を入れてくれ」

 そういうと比較的年齢層の高い事務室の中にあって、もっとも若いと思われる色の白い、女性が事務机から立ち、給湯室の方へと歩いて行く。

 社長は入り口に立ち、建設会社独特の木材の香りのする建物を見回す若い探偵と弁護士を奥へと促した。

 仕切り1枚で隔てられた応接スペースには、黒いソファと低めのテーブルが配置されていた。

 案内される言葉も待たず、どっかりと座った探偵は、少し大きめの声で、

「お茶じゃなくて、コーヒーがほしいなぁ」

 なんとも図々しい若者である。

「それで、話って言うのは?」

 大柄の社長もどっかりと1人かけのソファに座り、奇妙な2人を見据えた。その目には敵意の光が瞳の奥に見えていた。

 若者の顔を一瞥してから、自分が最初に口を開くのだろうな、と心中で囁きつつ、社長の日に焼けた社長に視線をむけた。

「さっきも申しましたが、生前の荒木氏の様子を伺いたくて」

 そう遠慮気味に言った弁護士の横で、すぐさま探偵が口を挟んだ。

「生前、荒木氏ともめていたと聞いたのですが、内容をお伺いしたいのですが」

 ストレートに聞く探偵であった。

 明らかに社長は不機嫌な態度になる。太い腕を組み、眉間にシワがよった。

「なにを聞きたいんだ、俺が荒木さんを殺したって言えばいいのか?」

 嫌味を交えて言う社長。

「あなたが荒木氏を殺したのであれば」

 ムッとした社長は眉間のシワをさらに強くした。

 ひやひやした顔で探偵と社長を交互に見る弁護士は、例のごとくハンカチで汗を拭いながら、震える唇で無礼な探偵の代わりに質問を投げかけた。

「荒木氏とトラブルがあったとのことですが、どういった内容のトラブルだったのかお聞かせ願えれば幸いです」

 下からの態度に少し考えるような素振りで、太いもみあげを、ゴム手袋でもはいているよえな指で2度、3度と掻くと、大きな咳払いをした。

 と、そこへやってきた事務員の女性が一礼すると、弁護士の前に緑茶を、わがままな探偵の前にコーヒーを置き、最後に自らの雇用主の前に、大きな黒い湯のみをおいた。

 事務員がその場を立ち去るまもなく、すぐにコーヒーに口をつける探偵。

 そして香りが鼻から消えないうちに、再びぶしつけな口調で質問を投げかけた。

「金銭的なトラブルだったんですか?」

 人にものをらたずねる態度とは言えない探偵の様子に、社長の視線は弁護士との対話に向けられた。

「5年くらい前た。金銭的に苦しくなってない。機材なり土地なりを売ったんだが、それでも倒産寸前まで追い込まれて。そこて荒木さんところへ頭を下げに行ったってわけだ」

「結果は言わなくてもわかるような気がします」

 と、同情的な視線で弁護士は軽くうつむいた。

「怒鳴られたさ。こっちは土下座までしたんだがな、話すら聞いちゃくれねぇ。あげくに、お前が社長で社員が可愛そうだと抜かしやがった。そこまで言われちゃ俺も黙っちゃいられなくてね。その場で怒鳴り合いになったってことだ。この通り声がでけぇからよ、近所の連中に聞かれたんだろう」

 自分1人の力でのし上がった荒木という老人の半生を知る弁護士にとって、最も理解できる展開であった。

「幸い、嫁さんの実家から借金できることになって、会社は存続できてるよ」

 そう皮肉めいた口調で、社長は苦い笑いを浮かべるのだった。

「今朝、社長さんはどこに居ましたか?」

 会社の顛末に興味を示さない探偵がアリバイを、淡々と尋ねた。

「どこってここにいたさ。事務所を開けるのが俺の朝いちの仕事なんでねぇ」

 そういった時、一瞬だが社長の視線は俯いた。

 この時、探偵は事務室の事務員たちの顔色が少し変わるのも見て取れた。

「そうでしたか。では今日はこれで失礼します」

 そういうなりソファから立ち上がった探偵は、事務所をあとにするのだった。

 お茶に一口、口をつけてから立った弁護士も、頭を下げ会社を出ていったのであった。

 人も車も通らない車道を町の中心の方へ向かって歩く探偵。

 その後ろから血相変えて弁護士が駆け寄ってきた。

「今のは私にもわかるよ。彼は嘘を言っていた」

 春が始まったばかりの小さな東北の町に、夕日が沈んでいく。

 そのギラギラとした夕日に浮かび立つのは、事件への好奇心ばかりが燃える、探偵、真田春也のえみであった。

 
 

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プロフィール

HN:
富士島
年齢:
39
性別:
男性
誕生日:
1986/01/06
職業:
介護職
趣味:
小説、漫画、映画、PC、スマホ

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