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ミステリー小説、書く!!!

ミステリー小説です。 毎週1回のペースで更新しますので、良かったら読んで感想をください。

スキマ時間にはビジネス書を「聴く」。オーディオブックのFeBe

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「不和の美」ー13

13

 筒井美咲が経営する居酒屋の中はそれほど大きくはなかった。カウンター席がありテーブル席が数席と奥に小さい和室が1つであった。

 彼女の車で居酒屋へ帰宅した4人は、テーブル席に腰掛け、今日の混乱をそれぞれの頭の中で整理するかのように、無口になっていた。

 木目が基調となったテーブルには、湯気を上げる緑茶の入った茶碗が置かれているが、誰1人として口をつけない。

 と、不意に真田春也は筒井美咲の顔を見つめた。

「コーヒーってあります?」

 雰囲気を尊重せず突拍子もないことを不意に口にする探偵である。

「今、コーヒー豆を切らしてて。インスタントでいいかしら?」

「はい。コーヒーでしたらなんでも」

 探偵は笑顔で頷く。

 美咲は微笑をたたえ、カウンターの横にある紺色ののれんをくぐり、奥の厨房へとサンダルの音を鳴らして消えていった。

「さっきもヘルパー事務所で飲んできたじゃないか」

「コーヒーは1日3杯は飲むので」

 と、弁護士の小声に堂々と答えた探偵はしかし、この時には興味をコーヒーの事から目の前に腰掛け、肩を丸めて落ち込んでいる、被害者の一人息子、荒木昭雄に瞬間的に移動してしまっていた。

「どうして身元引受人を奥様ではなく、美咲さんに頼んだんです?」

 それまで肩をすぼめて、一言も口にしなかった昭雄は、怒った風に眉をつり上げるなり、探偵の飄々とした顔を睨み付けて、声を少し荒げた。

「当たり前だろ! 妻をあんなところに呼べるはずないだろ!」

 事前に荒木昭雄の情報を古川弁護士から入手していた探偵には、昭雄氏には妻と成人した子供が居ること。材木会社を経営していること。財政難から父に借金の申し入れをしていたことなどを把握していた。

「親父が殺されるなんて・・・・・・。これからどうすればいいんだか」

 父親の突然の、しかも殺人という自然史とはほど遠い死にショックを受けているのと、これからやるべきことの多さに、今は頭が回っていない様子だった。

 その上、犯人扱いを警察からうけたのだから、心情は混乱の極地であろう。

「警察ではなんと?」

 頭をかきむしるようにしている昭雄に、感情などないかの如く探偵は普通に質問を投げかけた。

「事件の時間、何してたとか、父親との関係とかさ。確かに親父との仲は良くはなかったさ。だからって実の父親を殺すはずがないだろ!」

 段々に彼の顔は赤く、激高していくのが分かる。

「ちょっと落ち着きましょう」

 奥から出てきた美咲はコーヒーカップを探偵の前と親戚の前に置いた。

「探偵さん、昭雄さんの気持ちも考えてくださいね。賢い方だからお分かりになりますよね」

 そう微笑みで言われると、たいていの男は微笑みで頷いてしまう。

 しかし探偵は怯むことも、事件に対する妥協の観念もなく、コーヒーを一口すする昭雄に、さらなる質問を投げかけた。

「警察発表では犯行時刻は今朝方の午前5時から6時の間と断定されたようですが、その時間帯、昭雄さんはどこに居ましたか?」

 警察の事情聴取となんら変わらない青年の言葉に、含んだコーヒーを吐き出しそうになりながら、必死に呑み込み、むせながら探偵を昭雄は指さした。

「警察でも答えたがね。その時間帯は会社に向かう次いでに街の中を散歩していたんだ。下駄屋の親父と挨拶してるから、君も話を聞いてくるといい。
 とにかく俺はやってないからな」

 不機嫌な様子で立ち上がると、怒りに満ちた様子の足音を鳴らしながら、居酒屋の引き戸を開け、彼は外へと出て行ってしまった。

 心配そうに見送る美咲は、少し怒った様子で探偵を見やった。

 けれども探偵は反省するそぶりもなく、今の証言を軽く口の中で繰り返した。

「下駄屋。きっと証言が犯行時刻と重なったので、警察は昭雄氏を釈放したのでしょうね」

 そういうとコーヒーを口に含み、すぐさま弁護士に次の行動を提案した。

「目撃者が居ないか聞き込みをしましょう。犯行時刻に誰かが何かに気づいているかもしれません」

 そういうと一口しか口にしなかったコーヒーをテーブルに置いたまま、自分だけが店を駆けだしていった。

 慌てて弁護士も荷物を抱える。

「まったく、いつもながら人に気を遣うことをしらない若者だ」

 憤慨した様子で弁護士もまた、居酒屋を出て行った。

 残された筒井美咲はどこかその二人の取り合わせが、ちぐはぐに見えて妙におかしくなって微笑むのだった。

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プロフィール

HN:
富士島
年齢:
39
性別:
男性
誕生日:
1986/01/06
職業:
介護職
趣味:
小説、漫画、映画、PC、スマホ

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