忍者ブログ

ミステリー小説、書く!!!

ミステリー小説です。 毎週1回のペースで更新しますので、良かったら読んで感想をください。

スキマ時間にはビジネス書を「聴く」。オーディオブックのFeBe

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

コメント

現在、新しいコメントを受け付けない設定になっています。

「不和の美ー19」

19

 葬儀の日の翌朝、早く、ホテルにタクシーを呼んだ真田春也は、その脚で隣町まで向かった。

 まだ朝は日差しが出ているのに肌寒く、春先だと追うのに、息が白くなっていた。

 眠そうな目でバックミラー越しに春也の顔を何度もチラチラと見るタクシーの運転手は、町に唯一の信号機で停車すると、何を決心したように探偵に対して告げた。

「お客さん、探偵なんだってね」

 信号付近には大きな家が何軒かあり、それを見ながらその家は、どういった経緯で金儲けしているのだろうか、と考え込んでいた春也は、窓の外にあった視線を車内に戻して、バックミラー越しに運転手の、色が黒い顔を見つめた。

「ええ。もっぱら浮気調査や迷い猫探しが仕事ですがね」

 半分自分への皮肉も込めた様子で薄い笑みを浮かべた。

「荒木さんところの事件を捜査してるんだろ?」

 そう言うと信号が青に変わり、タクシーはゆっくりと発車した。

「これからその調査に向かうんです」

 眼を見開くように、興奮気味の顔をした探偵が運転手に言う。しかしどうして運転手が自らの事を探偵だとしり、荒木氏の事件を追っているのを知っているのか?

 そんな疑問が瞬間的に脳裡を走り抜けたが、この町の性質上、噂話はすぐに広まることを理解した上で、自らに回答を出した。自分が探偵だって言うことも、ホテルに宿泊していることも、荒木氏の事件を捜査していることも、小さな町ではすぐに広まる。

 火事が起こっただけで騒ぎになるほどの町なのだ、当然の結果であろう。

 そうと分かってしまえば、探偵の性格は事件のことを口走らずにはいられなかった。

「運転手さんは何か事件についての噂とか知りませんか?」

 一直線のバイパスに抜けたタクシーは、そのまま隣町へと走ってく。

 平日の朝は流石に田舎の小さな町でも通勤ラッシュなのだろう、車の通りが多かった。

 浅黒いタクシーの運転手は、一瞬沈黙でハンドルを握っていたが、すぐに視線をチラリとバックミラー越しに探偵へ流すと、薄い唇を開いた。

「その事なんですけどね、あの事件のあった日に、わたし見たんですよ。荒木さんの家の近くで不審な男を」

 思わず咳き込みかけて目を見開いた探偵は、前の座席の間から顔を突き出した。

「いつです!」

 猛然と質問する探偵に、驚いてハンドルを揺らし、タクシーが蛇行する。

 その遠心力で強制的に座席へと戻された探偵。

 運転手は車を立て直し、額に薄く汗を滲ませていた。もちろん冷や汗である。

 車を安定させてから、また運転手は唇を開いた。

「警察の発表だと荒木さんが殺された時間は午前5時から6時の間ってことだったんですけどね、わたしその日は隣町で朝方まで飲んでた客を拾って、町まで戻ったんですよ。その帰り道で荒木さんの家の近くを抜けた時に、男の人が歩いてたんです。老人しかいないような町ですから、朝早くに若い男の人があるいてるなんて、珍しいと思ってたら、こんなことになってしまって」

 眉毛に困った様子を覗かせる運転手。

「それで、顔はみたんですか?」

 運転手にずかずかと矢継ぎ早に質問を投げかける探偵に、運転手の心情を重んじる感情は当然このときはなく、ただ事件に対する意識だけで言動を続けていた。

「背格好は?」

 自分が責められているような感覚になる運転手は、何度もバックミラーごしに探偵の顔をみながら、事件当日のことを思い返しながら口にした。

「顔は帽子を深く被っていたから見えなかったんですがね、小柄な男の人でした」

「男になにか特徴は?」

「あまりマジマジと見た訳じゃありませんから、そこまではちょっと。ジーンズに黒いブーツ、ダウンジャケットを着て、黒い帽子を深く被ってました」

 新たな目撃情報に興奮気味の探偵は、容疑者たちの顔を脳裡に何度も巡らせる。

「このこと、警察には言ったんですか?」

 と、その時隣町の目的地へ到着したタクシーは、ブレーキを踏んで、ハザードランプを明滅させて停車した。

「警察には話しました。容疑者は男だ、とかいっていましたけど。わたし、間違ったことをしたんでしょうか?」

 探偵は不思議そうな顔をした。

「警察に証言することは、悪いことではないです。どうしてそう思うんですか?」

「犯人が町の誰かなら、逮捕されるってことですよね? なんか同じ町の人間を売ったような気分で、あまり気持ちがよくないんです」

 探偵はマジマジと運転手の顔をのぞき込んだ。

「殺人は法律違反です。人を殺すことは倫理に反します。間違いなく殺人犯は悪人なんです。人の心情とは無関係なんですよ。罪は罪なのです。殺人を犯した人間は、罪を償わなければならない。貴方は間違ったことはしていません」

 そういうと探偵はタクシーを待たせて、目的地の前に立った。

 そこは隣町の小さなスナックの前であった。



第20回へ続く

 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ー宣伝広告ー

東野圭吾さんの著書がまた映画化されるようです。
筆者も期待が大きいです。


[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

祈りの幕が下りる時 (講談社文庫) [ 東野 圭吾 ]
価格:842円(税込、送料無料) (2018/1/31時点)


PR

コメント

現在、新しいコメントを受け付けない設定になっています。

プロフィール

HN:
富士島
年齢:
39
性別:
男性
誕生日:
1986/01/06
職業:
介護職
趣味:
小説、漫画、映画、PC、スマホ

P R