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ミステリー小説、書く!!!

ミステリー小説です。 毎週1回のペースで更新しますので、良かったら読んで感想をください。

スキマ時間にはビジネス書を「聴く」。オーディオブックのFeBe

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「不和の美」ー1




 北風が和み山の雪化粧が青みがかる頃、朝の未だ肌寒さを覚える空気を救急車のサイレンが裂いたのは、春がまだ始まったばかりの、小さい田舎町の朝だった。
 
 複数の地区が離れた間隔で配置され、一つ一つの地区通しが車移動でなければ離れすぎている山を切り開いた東北部の小さな町。遅い春の足音がようやく聞こえてきたというのに、その事件は起こった。

 小さな町の中心、商店街が並ぶ地区にひときは大きな家が建っている。この町では珍しい地下の駐車場。庭師が手入れをしている大きな庭と離れの小さな建物。大昔は炭鉱町として盛んであったが、炭鉱が廃れ林業に町の産業をシフトした際に、林業で財産をなした荒木義男(87)の屋敷でる。

 その荒木義男が早朝、依頼していたヘルパーが訪れたところ、書斎で頭から血を流して倒れていた。

 交番の駐在と救急車が呼ばれ、病院のない町から隣町の病院へと搬送されるも、頭部外傷による脳挫傷により午前9時7分に死亡が確認された。

 明白な殺人事件ではあるが、この事件に1人の男が介入することで、不思議と解決したのである。

 その男は荒木義男の知人弁護士、古川栄太郎につれられてやってきた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

初めまして、富士島 神と申します。ここではミステリー小説を書きながら、少し小説の作品紹介などもしたいと思っています。

最初に紹介する小説、それをどうするか少し考えたのですが、やはりミステリー小説ということで、日本ミステリー小説の元祖「江戸川乱歩」氏について少し書きます。

個人的な話になりますが、江戸川乱歩氏と聞いて最初に思い出すのが「人間椅子」です。幼少の頃、ドラマを見て以来、それがどういった物語なのか、誰が作ったのか気になっていたのですが、ある時に江戸川乱歩氏の代表作の1つと知りました。

それから近年になって小説というフォーマットに触れるように成り、江戸川乱歩氏の作品を古本屋で探したのですが、なんせミステリー小説創世記の方ですので、文体が難しい。

そこで短編から入ることにしたのです。

江戸川乱歩傑作選」最初に読んだ作品です。

イメージとして、人間椅子はともかく、昔みた陣内孝則さんの「明智小五郎」が強く残っていたので、そうした作品かと思いました。ところが蓋を開けてとはこの事。中身はドロドロで人間の奥底にある、人には見られたくない感情や癖が綴られていました。

確かに人間椅子もその1つでしょう。

特に「D坂の殺人事件」などSM趣味が全面に出ていたとても子供には読ませられません。

私が描いていた明智小五郎は晩年の少年探偵団、子供へ向けた作品での痛快さだったと後に知りました。

しかし江戸川乱歩氏は、やはり歴史に名前が残る人。ここまで人間を書けるのは凄い!
 

江戸川乱歩傑作選

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「不和の美」ー2



 事件現場に怒鳴り声が響いたのは、あまりに殺人事件現場に似つかわしくない、白い壁にできた一点の染みのような人物が現場へ現出した時の事だった。

「おい、勝手になにやってる!」

 現場の指揮を執る県警の三田恭一(47)は、レザーの上着、ジーンズ姿の若い男が現場に、靴下のまま上がり込んできたのをみとめ、顔を赤く染めて怒号を発していたのだ。警察官ならばもっともな反応だ。

「まっててっていったじゃないか、真田君」

 春先のまだ肌寒い風が外界では身に応えるというのに、白髪交じりの弁護士、古川栄太郎(69)は、グレーのハンカチで、額から流れる冷たい汗を拭っていた。

「古川さんの知り合いですか? 困りますなぁ、事件現場に部外者を勝手に入れられては。捜査の邪魔になります」

 強い口調で三田警部は汗かきの弁護士に、険しい棘を突き刺した。

 だが当の本人はというと、殺人事件の現場を土足で踏み荒らすように、踏み心地のよい毛並みが長い絨毯を踏み歩き、木製の分厚い引き戸を入ってすぐ右側の戸棚を素手のままで開き、中に並べられている、見るからな貴重な焼き物の茶碗を手にとって、まじまじと眺め始めた。

「これは織部焼きですね。殺害された荒木氏は織部焼きの収集家だったようですね。実は僕も織部焼きには興味がありましてね。昨年の大型ドラマで古田織部を見てから、独学ですが調べているんですよ。あと漫画にもなりましたでしょ? あれは実に面白い作品でしたね。あの――」

「いい加減にしろ! ここは殺人の現場なんだぞ! 誰かこいつをここから追い出せ」

 警部の怒りはいよいよ炎のように顔を赤く染め、今にも血管が切れるのではというほどに、青年を怒鳴りつけた。

 制服警官が2人、玄関口から入ってくるなり、古川と青年を長い廊下を抜けて屋敷の外へと連れだし、小さな町で起こった殺人事件に集まった野次馬達の中へ放り出した。

「なにを考えているんだね春也君。君に事件の概要は説明したが、事件現場に入っていいとは一言も言っていないよ。これではわたしの信用問題にもなりかねない」

 古川弁護士がまた噴き出す冷たい汗をよれたハンカチで拭った時、青年は静かに、しかし確信めいた視線で屋敷の大きな玄関を見つめ、ぽつりと呟いた。

「凶器は織部焼きでしたね。書斎に破片が散らばってましたから。でも辺ですね。凶器になりそうな大きな灰皿が机の上にはありましたし、重そうなトロフィーや花瓶も部屋にはありました。犯人はどうしてわざわざ戸棚を開けて、織部焼きを凶器として使ったのでしょうか? 
 犯人は犯行を迅速に終わらせてすぐにその場を立ち去りたいはずではありませんか。それなのに手間をかけて凶器を戸棚から・・・・・・」

 数分の間にこの探偵真田春也(28)は室内の状況をつぶさに観察していたのである。

 弁護士は思わずその洞察力に喉を流し、別の意味で溢れてた額の汗を拭った。



ここからは、小説について書きます。

今回は私の好きな山田風太郎氏について。

「不和の美」ー3



 町には1つだけ宿泊施設がある。バブルの頃に建てられたホテルである。当時の町長が林業の町から観光の町へと産業をシフトしようとして町が貯蓄していた炭鉱時代の収入金で建設したのである。

 だが山ばかりの町に観光地があるはずもなく、登山シーズンならば観光客も訪れたであろうが、シーズンオフには閑古鳥。結果として町営ホテルは民営化され、今ではその一部が委託された隣町の企業が宿泊施設として、細々と糸を紡ぐように経営していた。

 けれどもそこへ行く手段もまた、町にはない。車がなければ移動手段すらない小さな町では、商店街から宿泊施設までの7キロをタクシーで移動するのである。

 ホテルへいったん戻ることとした探偵の真田春也と弁護士の古川榮太郎は、車中で事件についての話をしていた。

 もちろん運転手もこの町の人間であるから、早朝に起こった町の実力者の死を十分に把握し、聞き耳を立てていた。

 2人はそれを知りながらも話を続ける。

「つまりだよ真田君。わたし達は事件の部外者なのだから、ああいった行動は困るんだよ。事件現場に土足であがるなんて、君も探偵ならば現場を荒らすのがいかに重大な罪か分かるだろう」

 唾をとばしながら弁護士はまくし立てた。

 2人のこの町に来たいきさつは、事件を解決するためではない。古川栄太郎と昔からの知人である被害者荒木義男は、骨董品のコレクターとして様々な歴史的品物を収集していた。また古川の若い知人たる真田春也もまた、歴史を得意とする人物であり、2人の共通の趣味である歴史について、語る場をつねづね設けたいと考慮していた古川弁護士は、今回その機会を得てはるばる田舎の小さな町までやってきたのではあるが、現実は奇なりである。

「分かっていますよ。でも古川さんの知人が殺されたんですよ。このまま知らない振りもできないでしょう?」

「それはそうだがねぇ・・・・・・」

 事実、古川の心中は辛い物があった。古川弁護士は亡くなった荒木義男に恩義があったからだ。

「不和の美」-4



 古川栄太郎と殺害された荒木義男との出会いは40年も前に遡る。

 当時、弁護士として東京の小さな事務所で働いていた栄太郎は、保険金詐欺事件を担当していた。高齢の夫が亡くなり多額の保険金が20代の妻へ入ったのである。夫は浴室で滑って頭を強打。脳内出血で亡くなった。

 だが高齢の夫は1人ではけして風呂に入らない。毎日訪問するヘルパーの助けを借りて入浴していた。しかし事件は夫の事故死として保険金は下りた。

 これに納得のいかなかった長男が父親は殺害された、として後妻である20代の妻を訴えた。その弁護士として長男側に着いたのが栄太郎だった。

 栄太郎は夫が1人で入浴できない事実、妻がその日、家に居ながら夫が風呂に入るのを止めなかった事実などを法廷で明らかにした。

 けれども事件は証拠不十分で彼は敗訴した。栄太郎にとって若い頃の苦い経験である。

 この事件を偶然にも知った当時40代だった荒木義男が知り、彼を自ら訪れ自分の顧問弁護士として雇ったのである。

 栄太郎が担当したこの裁判、誰が見たところで証拠不十分なのは分かっていた。それでもこの裁判を受けた若い弁護士の意気込みに荒木義男はえらく感動した。

 生前、酔うと義男はよくこの話をしていた。

 それから40年の付き合いである。殺害された荒木義男の死を誰よりも悲しみ、誰よりも犯人の確保を熱望するのは栄太郎自身である。だから真田春也を事件から遠ざける口ぶりであったが、タクシーの後部座席で被害者に恩義のある弁護士は事件の概要を口にした。


「不和の美」ー5



 弁護士の古川は自分が手にしている情報を、探偵に見せるようにゆっくりと語り始めた。

「義男氏は朝が早いんだ。朝の5時には起床してパソコンを操作するんだよ。あの年齢には珍しくてね、インターネットで世界のニュースや投資情報をチェックするのが日課だったんだよ。
 今朝も新聞配達員が書斎に電気が灯っているのを見ているから、5時過ぎにはまだ生存していたと考えられる」

 タクシーの外を町の真ん中を流れる河が続くのを探偵は見ながら、頭の中でメモをとるように、耳は鋭く弁護士の声を拾い上げていた。

 弁護士は運転手の耳もまた大きくなっている事実に配慮してだろうか、少し声を潜めながら説明を続けた。

「午前8時、義男氏は隣町のヘルパー派遣会社に朝食の支度を依頼していてね。毎朝同じ時間にヘルパーは来ていたんだ。
 名前は岡本美枝子さん。わたしも彼女とは顔見知りでね。電話で話しを聞いたんだが、いつものように預かっている合い鍵で玄関を開けて声を掛けたそうなんだ。義男氏は返事をしない。偏屈だからね。だから美枝子さんはいつものように台所へいったんだがそこで異変に気づいたそうなんだ。
 ご飯だけは自分の炊きかけんがあるから必ず自分で炊飯器で炊飯するのが日課のはずが、今朝は炊飯器にスイッチはおろか中が空だった。おかしいと思って書斎に声をかけたが返事がなくて――」

 そこから先は弁護士が言う前に探偵が田舎の寂しい風景から振り向きざまに答えた。

「遺体を発見した。つまり午前5時~午前8時の3時間の間に被害者は殺害された訳ですね、わざわざ織部焼きで」

 若い探偵は凶器に対する引っかかりがぬぐえなかった。

 弁護士は白髪交じりの頭を立てにコクリと振った。

「ではまず、ヘルパーの岡本さんに話を聞きに行きましょう」

 ホテル方面とは真逆の方向であるにもかかわらず、探偵は平然と言った。

「運転手さん、隣町まで行ってください」

 代金を支払うのは古川弁護士であるから、白髪交じりの眉には不快感が乗っていた。

 タクシーは野菜の直売所の駐車場で方向を変え、来た道を隣町へ再び戻ったのだった。


プロフィール

HN:
富士島
年齢:
39
性別:
男性
誕生日:
1986/01/06
職業:
介護職
趣味:
小説、漫画、映画、PC、スマホ

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