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ミステリー小説、書く!!!

ミステリー小説です。 毎週1回のペースで更新しますので、良かったら読んで感想をください。

スキマ時間にはビジネス書を「聴く」。オーディオブックのFeBe

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「不和の美」ー11

11

 食堂を出て右側のところに路地がある。住宅の間を抜ける、車一台がようやく通れる幅の路地だが、そこを抜け他ところに、商店街と平行した通りが現れる。通商、郵便局通りと呼ばれる、郵便局に面した通りだ。

 その他にも地方銀行の地点が設置されるなど、商店街よりも人通りは少ないが、町の生活基盤を支える通りとなっていた。

 通りに出た2人が郵便局の前を通り、少し歩いた場所に、一軒の居酒屋が姿を現す。さすがに今の時間帯は営業していない様子で、入り口の磨りガラスの向こう側にのれんの紺色が見えていた。

 先に古川が入り口の、少し雰囲気のある木目調の入り口に手を掛ける。

 その時、入り口の扉が勝手に開き、人影が弁護士と危うくぶつかりそうになって、
「キャッ!」

 と女性の悲鳴が短く立ち上がった。

 思わず古川も後ずさりすると、頬を赤らめて白髪交じりに頭を下げた。

「あ、申し訳ありません」

 女性はその声色に知人なのを理解すると、のれんの奥から姿を見せた。

「古川さん?」

 紫を基調としたあでやかな着物をまとった、色の白い女性が香る微笑を漂わせて、古川を見やった。

 女性にそれほど興味を抱かない真田春也ですらも、息を呑む美しさがそこにはあり、漂う色気は男の本能を鷲づかみにするものがある。

「美咲さん。ご無沙汰でしたね」

 古川弁護士の顔は妙に嬉しげに明るくなっていた。

「こんな形で古川さんと再会するなんて、嫌ですね」

 眉をひそめ彼女は頭を深々と下げた。そこには自らの叔父の死が古川をこういう形で自らの前へ招いたことへの謝罪が込められていた。

「何をいっているんです、頭を上げてください美咲さん。義男氏の無念はきっと我々がはらしますから」

 事件をまるで自らが解決してみせるような口ぶりに、古川の調子の良さを探偵は冷笑で見た。

 頭を上げた筒井美咲が探偵を見るなり、にっこりと微笑む。

 この瞬間、古川栄太郎の調子の良さの訳が分かった気がした。この笑みに弁護士は射貫かれているのだ。

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「不和の美」ー12

12

 筒井美咲の運転する軽自動車は、まっすぐに隣町の警察署へと向かった。

 またしても真田春也と古川栄太郎は警察署へ舞い戻ることになった。

 その車中、不意に若い探偵は図々しい口調で、平然と悪びれる様子もなく運転中の筒井美咲へ問いかけた。

「美咲さんはおいくつなんですか?」

 ガソリンスタンドの前の信号機でシルバーの車は停車したが、あまりに唐突な質問のせいか、ブレーキが多少、急になり後部座席の2人の身体が前のめりになった。

「失礼じゃないか、女性に対してそういった質問は」

 明白に不機嫌さを顔に表す初老の弁護士。

「いいえ、良いんですよ古川さん。若いって素直でいいわね」

 そう言うとニコニコと香る笑みをたたえ、バックミラーで探偵を見つめて、彼女は赤い唇で囁く。

「36歳、もうすぐ37ですけど」

 と車内に不思議と甘い香りが漂ったのを探偵の鼻腔は感じ取り、思わずドキッとしてしまった。

 古川ももちろん、本能をすでに握られていた。

「ご結婚は?」

 またしても探偵は素直すぎる口調で問いかけた。

「いい加減にしないか!」

 怒った口調は弁護士である。

「この歳までご縁に恵まれなくて。貴方が引き取ってくださる?」

 明白な冗談だったが、探偵は待たしても胸が苦しくなるほどの色気に、横の弁護士の如く何かを掴まれた気分にさせられた。

 と、丁度その時、車は報道陣で賑わう警察署の駐車場へと入っていった。

 この時、入り口から誰かが出てきていたらしく、蟻が砂糖に群がるように、多くのカメラのシャッターフラッシュがたかれ、人の囲いができていた。
 
 その群れが方向をジグザグに変えながら車の方へ近づいてきた。

 すると筒井美咲は素早く助手席のドアのロックを開けると、間髪を入れずにドアが開き人影がもみくちゃにされながら滑り込んできた。

 そこからの筒井美咲の運転テクニックは素早かった。即座に後方を確認するとバックで車道へ出ると、そのまま隣町へ通じる車道をひた走ったのであった。

 弁護士は助手席に滑り込んだ、髪が乱れ明白にやつれた男の顔を見るなり、驚きの声色を発した。

「昭雄君!」

 警察署から出てきたのは、殺害された被害者の一人息子、荒木昭雄であった。

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「不和の美」ー13

13

 筒井美咲が経営する居酒屋の中はそれほど大きくはなかった。カウンター席がありテーブル席が数席と奥に小さい和室が1つであった。

 彼女の車で居酒屋へ帰宅した4人は、テーブル席に腰掛け、今日の混乱をそれぞれの頭の中で整理するかのように、無口になっていた。

 木目が基調となったテーブルには、湯気を上げる緑茶の入った茶碗が置かれているが、誰1人として口をつけない。

 と、不意に真田春也は筒井美咲の顔を見つめた。

「コーヒーってあります?」

 雰囲気を尊重せず突拍子もないことを不意に口にする探偵である。

「今、コーヒー豆を切らしてて。インスタントでいいかしら?」

「はい。コーヒーでしたらなんでも」

 探偵は笑顔で頷く。

 美咲は微笑をたたえ、カウンターの横にある紺色ののれんをくぐり、奥の厨房へとサンダルの音を鳴らして消えていった。

「さっきもヘルパー事務所で飲んできたじゃないか」

「コーヒーは1日3杯は飲むので」

 と、弁護士の小声に堂々と答えた探偵はしかし、この時には興味をコーヒーの事から目の前に腰掛け、肩を丸めて落ち込んでいる、被害者の一人息子、荒木昭雄に瞬間的に移動してしまっていた。

「どうして身元引受人を奥様ではなく、美咲さんに頼んだんです?」

 それまで肩をすぼめて、一言も口にしなかった昭雄は、怒った風に眉をつり上げるなり、探偵の飄々とした顔を睨み付けて、声を少し荒げた。

「当たり前だろ! 妻をあんなところに呼べるはずないだろ!」

 事前に荒木昭雄の情報を古川弁護士から入手していた探偵には、昭雄氏には妻と成人した子供が居ること。材木会社を経営していること。財政難から父に借金の申し入れをしていたことなどを把握していた。

「親父が殺されるなんて・・・・・・。これからどうすればいいんだか」

 父親の突然の、しかも殺人という自然史とはほど遠い死にショックを受けているのと、これからやるべきことの多さに、今は頭が回っていない様子だった。

 その上、犯人扱いを警察からうけたのだから、心情は混乱の極地であろう。

「警察ではなんと?」

 頭をかきむしるようにしている昭雄に、感情などないかの如く探偵は普通に質問を投げかけた。

「事件の時間、何してたとか、父親との関係とかさ。確かに親父との仲は良くはなかったさ。だからって実の父親を殺すはずがないだろ!」

 段々に彼の顔は赤く、激高していくのが分かる。

「ちょっと落ち着きましょう」

 奥から出てきた美咲はコーヒーカップを探偵の前と親戚の前に置いた。

「探偵さん、昭雄さんの気持ちも考えてくださいね。賢い方だからお分かりになりますよね」

 そう微笑みで言われると、たいていの男は微笑みで頷いてしまう。

 しかし探偵は怯むことも、事件に対する妥協の観念もなく、コーヒーを一口すする昭雄に、さらなる質問を投げかけた。

「警察発表では犯行時刻は今朝方の午前5時から6時の間と断定されたようですが、その時間帯、昭雄さんはどこに居ましたか?」

 警察の事情聴取となんら変わらない青年の言葉に、含んだコーヒーを吐き出しそうになりながら、必死に呑み込み、むせながら探偵を昭雄は指さした。

「警察でも答えたがね。その時間帯は会社に向かう次いでに街の中を散歩していたんだ。下駄屋の親父と挨拶してるから、君も話を聞いてくるといい。
 とにかく俺はやってないからな」

 不機嫌な様子で立ち上がると、怒りに満ちた様子の足音を鳴らしながら、居酒屋の引き戸を開け、彼は外へと出て行ってしまった。

 心配そうに見送る美咲は、少し怒った様子で探偵を見やった。

 けれども探偵は反省するそぶりもなく、今の証言を軽く口の中で繰り返した。

「下駄屋。きっと証言が犯行時刻と重なったので、警察は昭雄氏を釈放したのでしょうね」

 そういうとコーヒーを口に含み、すぐさま弁護士に次の行動を提案した。

「目撃者が居ないか聞き込みをしましょう。犯行時刻に誰かが何かに気づいているかもしれません」

 そういうと一口しか口にしなかったコーヒーをテーブルに置いたまま、自分だけが店を駆けだしていった。

 慌てて弁護士も荷物を抱える。

「まったく、いつもながら人に気を遣うことをしらない若者だ」

 憤慨した様子で弁護士もまた、居酒屋を出て行った。

 残された筒井美咲はどこかその二人の取り合わせが、ちぐはぐに見えて妙におかしくなって微笑むのだった。

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「不和の美」ー14

13

 筒井美咲が経営する居酒屋の中はそれほど大きくはなかった。カウンター席がありテーブル席が数席と奥に小さい和室が1つであった。

 彼女の車で居酒屋へ帰宅した4人は、テーブル席に腰掛け、今日の混乱をそれぞれの頭の中で整理するかのように、無口になっていた。

 木目が基調となったテーブルには、湯気を上げる緑茶の入った茶碗が置かれているが、誰1人として口をつけない。

 と、不意に真田春也は筒井美咲の顔を見つめた。

「コーヒーってあります?」

 雰囲気を尊重せず突拍子もないことを不意に口にする探偵である。

「今、コーヒー豆を切らしてて。インスタントでいいかしら?」

「はい。コーヒーでしたらなんでも」

 探偵は笑顔で頷く。

 美咲は微笑をたたえ、カウンターの横にある紺色ののれんをくぐり、奥の厨房へとサンダルの音を鳴らして消えていった。

「さっきもヘルパー事務所で飲んできたじゃないか」

「コーヒーは1日3杯は飲むので」

 と、弁護士の小声に堂々と答えた探偵はしかし、この時には興味をコーヒーの事から目の前に腰掛け、肩を丸めて落ち込んでいる、被害者の一人息子、荒木昭雄に瞬間的に移動してしまっていた。

「どうして身元引受人を奥様ではなく、美咲さんに頼んだんです?」

 それまで肩をすぼめて、一言も口にしなかった昭雄は、怒った風に眉をつり上げるなり、探偵の飄々とした顔を睨み付けて、声を少し荒げた。

「当たり前だろ! 妻をあんなところに呼べるはずないだろ!」

 事前に荒木昭雄の情報を古川弁護士から入手していた探偵には、昭雄氏には妻と成人した子供が居ること。材木会社を経営していること。財政難から父に借金の申し入れをしていたことなどを把握していた。

「親父が殺されるなんて・・・・・・。これからどうすればいいんだか」

 父親の突然の、しかも殺人という自然史とはほど遠い死にショックを受けているのと、これからやるべきことの多さに、今は頭が回っていない様子だった。

 その上、犯人扱いを警察からうけたのだから、心情は混乱の極地であろう。

「警察ではなんと?」

 頭をかきむしるようにしている昭雄に、感情などないかの如く探偵は普通に質問を投げかけた。

「事件の時間、何してたとか、父親との関係とかさ。確かに親父との仲は良くはなかったさ。だからって実の父親を殺すはずがないだろ!」

 段々に彼の顔は赤く、激高していくのが分かる。

「ちょっと落ち着きましょう」

 奥から出てきた美咲はコーヒーカップを探偵の前と親戚の前に置いた。

「探偵さん、昭雄さんの気持ちも考えてくださいね。賢い方だからお分かりになりますよね」

 そう微笑みで言われると、たいていの男は微笑みで頷いてしまう。

 しかし探偵は怯むことも、事件に対する妥協の観念もなく、コーヒーを一口すする昭雄に、さらなる質問を投げかけた。

「警察発表では犯行時刻は今朝方の午前5時から6時の間と断定されたようですが、その時間帯、昭雄さんはどこに居ましたか?」

 警察の事情聴取となんら変わらない青年の言葉に、含んだコーヒーを吐き出しそうになりながら、必死に呑み込み、むせながら探偵を昭雄は指さした。

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 不機嫌な様子で立ち上がると、怒りに満ちた様子の足音を鳴らしながら、居酒屋の引き戸を開け、彼は外へと出て行ってしまった。

 心配そうに見送る美咲は、少し怒った様子で探偵を見やった。

 けれども探偵は反省するそぶりもなく、今の証言を軽く口の中で繰り返した。

「下駄屋。きっと証言が犯行時刻と重なったので、警察は昭雄氏を釈放したのでしょうね」

 そういうとコーヒーを口に含み、すぐさま弁護士に次の行動を提案した。

「目撃者が居ないか聞き込みをしましょう。犯行時刻に誰かが何かに気づいているかもしれません」

 そういうと一口しか口にしなかったコーヒーをテーブルに置いたまま、自分だけが店を駆けだしていった。

 慌てて弁護士も荷物を抱える。

「まったく、いつもながら人に気を遣うことをしらない若者だ」

 憤慨した様子で弁護士もまた、居酒屋を出て行った。

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「不和の美」ー15


15

 街に酒屋は一軒しかなく、荒木義男邸の近所ということもあって、真田春也と古川栄太郎は最初にその酒屋へ向かった。

 店頭には販売機が並び、タバコの自販機もあった。

 入店するとアラームが数度鳴り響き、奥から酒屋独特の紺色の厚手前掛けを着衣した、50代と思われる、腹が出た色黒の店主が、せかせかと出てきて、

「はい、いらっしゃい」

 と、威勢よく2人に話しかけてきた。

 小さい町である。酒屋の店主も町の人間でない2人にすぐに気づいたのか、店の看板商品である地酒の棚の前に、半ば強引に2人を案内すると、土産品としての価値を2人へ弁舌に説くのだった。

「酒を買いに来たんじゃないんですよ。亡くなった荒木さんについて聞きに来たんです」

 単刀直入に話すことしかできない探偵である。

 事件の話はすぐに町の中でも噂になったのだろう、店主の目がそれまでになく、怪訝に細められた。

「おたくら、警察の人?」

 そう言いながら怪しげに見る店主はしかし内心では、警察官とは異なる雰囲気と、砕けた格好の探偵を、警察官と思ってはいない。

「新聞記者なら帰ってよ。」

 午後3時である。

 この時間までに数多くの記者が町に溢れていた。狭い町で発生した殺人事件。小さい、交通事故すらも起こらない町での殺人事件であるから、当然のことながらマスメディアは飛びついた。

 僅かな時間の間に、放送各局のテレビカメラが町に入り、新聞記者、カメラマンが普段は人通りもまばらな商店街をうろついていた。

 中には留守の家の裏へ回り、窓から民家を覗く者、交通量が少ないとは言え、商店街のど真ん中に脚立を置いてカメラで撮影する者など、協力的になれと言うほうが難しく、この酒屋に出入りした記者たちに、何度も同じ質問を問いかけられて、店主も苛立ちを隠せずにいた。

「そうじゃないんですよ。何度かこちらからお酒を買ったことがあるんですが、覚えていらっしゃらないですかねぇ」

 無礼な若造の言葉を取り繕うように、弁護士が顔を前へ突き出す。

 黒く塗ったように顔が焼けている店主が、思い出すかのように目を細くして弁護士の顔をよくよく見ていると、ハッとした様子で目を見開いた。

「古川さんかい? 荒木さんところによく来てた弁護士の」

「そうです。古川です」

 再び笑みを浮かべた店主は、残念そうに弁護士の手を取って握手する。

「とんだ災難だったね。誰がこんなことをしたのか。信じられないよ」

 店主が何度も弁護士の手を握って上下させるのを横で見ていた探偵はしかし、そうした労いの言葉などをここへ求めてはいなかった。

「記者の方が何度となく伺ったと思いますが、俺たちも事件を解決するために町の人に聞き込みをしているんです。協力を願います」

 というその表情には、申し訳なさそうな表情も、感情的な断片すらも見ることはできず、ただ機械的に自らが求める情報を引き出そうと、便宜上、口先だけで発言していた。

 店主が怪訝そうに若者を一瞥してから、古川弁護士を見る。

 その申し訳なさげな笑みに、店主は仕方がないな、とばかりに渋々、頷いた。

 間髪を入れずに探偵は弁護士との手も離れないうちに、質問を投げかけた。

「荒木義男氏という人はどういう人だったんですか?」

 上を見上げ少し考える店主は、少し話すのに戸惑いを抱えている様子だった。

「いいんですよ。真実を話してください」

 そう弁護士に促され、ようやく酒屋の店主は腕組みをして口を開いた。

「いい人とは必ずしも言えなかったねぇ。なんて言えばいいんだか、町でも孤立してるっていうのかなぁ。近所の集まりには出ないし、この辺で回してる回覧も見てるんだかどうだか、来ているヘルパーさんに回してもらってたみたいだし、あれだけ大きなお屋敷に住んでるだろう? あそこからほとんど姿を見せないんだから、こっちだって気味悪く思うのは当然だろう?」

 探偵はふと古川弁護士の横顔を見ると、自らの事でもないのに、申し訳なさそうに頭を下げていた。

 そんなことを気にする探偵でもなく、続けざまに質問を投げかけた。

「トラブルを抱えてるという噂などは聞いていませんか?」

 店主は今度、首を横に倒し、頷きながら考え込んだ。

「うーん、そういえば何年か前だったか金銭面でのトラブルがあったってのは聞いた覚えがあるなぁ」

「誰とですか?」

 間を置かず探偵はさらに引き出そうとする。

「この町のD建設の社長の伊美徹とだよ。なんでも会社の経営がうまくいってなくて、借金を頼みに来てたらしい。もちろん荒木さんのことだから、すぐに追い返されたらしいけど、あとあとで荒木さんを恨んでるって話してたらしいよ。まぁ、噂ですけどね」

 有力情報が探偵の脳内に石に刻まれた文字の如く、深く入り込み、それが興奮の度合いを高くしたのだろう、探偵の目は見開かれていた。

「犯行時間の早朝ですが、怪しい人を見かけませんでしたか?」

 探偵の口調は自然と口早になっていた。

「配達の準備をしてたけど、特に気づかなかったなぁ。そんな時間から外に出てる人間なんて滅多にみないからなぁ」

「配達ですか?」

「ああ、美咲ちゃんのところにだよ。毎朝早朝に届ける手はずになっててね」

 探偵は引っかかりをすぐに見つけると、そこを掘り下げた。

「犯行時刻、美咲さんは店に居たんですか?」

 これには店主も不機嫌な顔に豹変した。

「当たり前だろ! 美咲ちゃんを疑ってるのか!」

 そういうと店主は組んでいた腕を振り払い、手首をぶらぶらとさせた。

「帰ってくれ。もう話すことはない。商売の邪魔だよ」

 と、2人は追い返されるように店から出された。

「君って男は美咲さんまで疑っているのかね」

 古川が困った顔をすると、

「探偵ですからね。それよりもD建設へ向かいましょう。トラブルの具体的な情報が欲しいです」

 飄々と若い探偵は商店街を歩いて行く。

 弁護士は彼と聞き込みを終えた時、町の人間が全員、敵になっているかもしれないという考えに、溜息を漏らすのだった。





プロフィール

HN:
富士島
年齢:
39
性別:
男性
誕生日:
1986/01/06
職業:
介護職
趣味:
小説、漫画、映画、PC、スマホ

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