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ミステリー小説、書く!!!

ミステリー小説です。 毎週1回のペースで更新しますので、良かったら読んで感想をください。

スキマ時間にはビジネス書を「聴く」。オーディオブックのFeBe

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「不和の美」-6



 隣町は事件の起こった山の中の田舎町よりは発展はしているものの、田舎という概念から逸脱することなく、春也が車内から眺める風景は、どこも寂れたふうに見えていた。

 隣町の商店街を抜け、山の方角へ向かったところに、ヘルパー派遣会社は黄緑色の外観で2人を迎えた。しかし目的の人物、岡本美枝子(53)に会うことは叶わなかった。

 立て付けの悪い押し扉を開け、入ってすぐの事務所に事件に関することと、弁護士である古川が事情を聞きたい旨を伝えたところ、ヒョロリとした灰色の毛糸ベストを着用した、声の小さな所長が出てくるなり、困った様子で白髪頭を搔きながら、彼らに説明した。

 頼りなさそうな所長の話では、第一発見者の岡本美枝子は参考人として町の駐在所へ連れて行かれたというのだ。

「まあ、当然ですね。俺たちも向かいますか」

 ジーンズのポケットに手を入れたまま、無愛想に頭を下げた真田春也は、そそくさとヘルパー事務所を立ち去り、残された古川弁護士は、相変わらずの汗を灰色のハンカチで拭い拭い、深々と頭を下げその場をあとにした。

 外で待たせていたタクシーに古川弁護士が乗り込むと、真っ先に探偵は運転手へ伝えた。

「警察署へ向かってください」

 弁護士を引っ張るように、強引に探偵は事件捜査へ没頭し始めた。

「殺人事件というのは朝が最も良いのかもしれませんね」

 不意に妙にことを言い出した探偵。

 目を丸くして弁護しはキョトンとした。また何を言い出すのやら、と心中ではどぎまぎしていた。

「だってそうでしょう? こんな田舎の朝は誰も外になんかでませんよ。まして新聞配達をしている時間帯に起きている人など。
 例え起きていたとしても外へ出る人なんていないでしょう。その中で殺人事件が行われる。目撃者はきっと乏しいでしょうし、警察も聞き込みに苦労していると思いますよ」

 不思議と何も考えていないように見えて、青年が時折するどくなる瞬間を、弁護士は不思議と恐ろしく思えた。まるで何もかもを見透かしているようで、自分の心さえも見透かされているように思えた。

 と、その時に弁護しの携帯電話がバイブレーションを作動させた。まだ携帯電話を所持している古川栄太郎は、携帯電話を開き、不必要に通話ボタンを人差し指で強く押し、電話に出た。

「はい、古川ですが」

 電話の相手が心地良い相手ではないのだろう、怪訝そうに弁護士は顔を歪めた、

 が、すぐに眉毛と額を上げ、驚いた様子で春也を見つめた。

「はい、はい、分かりました。丁寧にどうも」

 電話を切る、携帯電話を上着のポケットにおさめるのも忘れ、唖然と春也へ弁護しはポツネンと呟いた。

「重要参考人が連行されたそうだ」

「誰ですか」

 急展開に春也は興奮気味に口早になる。

 一呼吸置いて、弁護士は喉を鳴らしてから答えた。

「連行されたのは、義男氏の1人息子、荒木昭雄くんだ」

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「不和の美」-7



 田舎警察の主な業務として、巡回と公安委員会の職務がある。つまり免許証の更新手続きを行う業務だ。

 真田春也、古川栄太郎がタクシーで乗り付けた時、普段は運転免許証の更新手続き、講習会でいっぱいになる駐車場に、新聞記者、テレビ局のカメラが並んでいた。

 静かな町で起こった殺人事件。全国的に注目を集めるのは当然のことである。

 時刻は昼近くになろうとしている。事件発生から数時間、すでに情報はマスコミに滴がこぼれるような状態から、ホースが途中でちぎれ、水が溢れるかのように、報道へと坂を転がり落ち始めていた。

 タクシーから降りた2人。玄関前には新聞記者が殺到し、その後ろにテレビカメラを抱えた男たち、マイクを持ったレポーターの姿があり、まるで城壁のように駐在所へ入る脚を阻まれていた。

「ついさっきですよ、昭雄氏が連行されていったのは」

 マスコミの陣営から1人離れ、2人に近づいてきた小男が、栄太郎を見上げて口の端を片方上げた。

「貴方が真田春也さんですか。想像よりもずいぶんとお若いですな」

 と、次は探偵を見上げて小男はおもむろに名刺入れを上着の内ポケットから出して、名刺を春也に手渡した。

 そこにはN新聞社記者飯島勝と書かれていた。

「古川さんに電話をしたとは、わたしですよ。いち早くお2人に事件の詳細を伝えようと思いましてね」

 また口の端を片方だけ上げて、ほくそ笑む。

「犯行時間のアリバイがなかったと?」

 少し気味の悪い記者の事など眼中にない春也は、ベクトルを向けている事件に事に関しての質問を、いきなり新聞記者へ投げつけた。

 ずけずけと質問することで、警察や古川弁護士からも嫌われている飯島勝も、さすがに面食らった顔をした。が、すぐにまたほくそ笑み答えた。

「聞いていましたが、頭は事件のことでいっぱいのようで・・・・・・。
義男氏が殺害された時刻、昭雄氏は自宅に居なかったそうで。彼の自宅は殺害された義男氏の豪邸からさほど離れていないところに建っていましてね。奥さんはその時間帯、主人が居なかったと証言しているんですよ。
ましてや親子の仲はよくないですからな。疑われるのは当然といったところでしょう。金銭トラブルでの父親殺害。これで間違いないですな」

 聞いてもいないことをズケズケと憶測でいう記者に、憤慨した様子で弁護士は強く抗議した。

「昭雄くんはそんな人じゃない。いい加減なことを言わないでくれ」

 一方その横では探偵が事件の概要が見えてきたことに、笑みを浮かべていた。

 その時、マスコミの陣営で複数の声が上がった。

「おっと、何か動きがあったな」

 小男はそそくさとネズミのようにまた、自らの仕事現場へと戻って行ってしまった。

「金銭トラブルですか?」

 古川に探偵は質問を投げかける。その瞳は好奇心で縁取られていた。

 多少言いにくそうに、古川弁護士は白髪交じりの頭を縦に軽く振った。

「不和の美」-8



 弁護士には守秘義務がある。が、彼の人柄が信用できるのと、場合が場合だけに弁護士は小声になり、皺が増えてきた顔を探偵の耳元へ近づけた。

「昭雄君は町で材木加工会社を経営していましてね。けれどもあの町の財政は見ての通りで、仕事を広げようと試みているんだが、うまくいかなくてね。結果的に借金が増えて行っているんだよ。それで義男氏にお金の工面を幾度か頼んでいるんだが、義男氏はああいう人柄だからね。息子には厳しかったんだ」

「ああいう人柄? 俺は会ったことがないですから。もっと具体的に説明してくれますか」
 
 事件への関心が強いせいか、ぶっきらぼうに言葉を淡々と探偵は並べた。

 いつもの事だ、と事件に対する彼の姿勢をしる古川は、少し被害者の広がを頭の中で簡素にまとめてから口にした。

「粗暴と言ったら失礼にあたるが、その言葉が一番近いかもしれない。酒は豪快に飲むし、食に関しても年齢を感じさせないほど進んでいた。色という方でも豪快でね。外に女性を作っては幾度も泣かせていたのを、わたしも見ているよ。
 仕事は優秀そのものだったよ。誰よりも働いたし、寝るのが惜しい、と口癖のようにね。凄い人だった」

 故人をおしむように、悔しげに唇を弁護士は噛みしめた。

「なるほど。息子には自分で金の工面をさせたかったわけですね。それができなければ、経営者失格だと思っていたのでしょう」

 洞察力といったものがずば抜けている探偵は、人柄を少し聞いただけで、被害者を理解したように、親子の関係性を見抜いていた。

「喧嘩も1回や2回じゃなかったからね。それで三田警部は昭雄君を任意で取り調べているんだろ」

 状況が少しずつつかめてくるにつれて、真田春也の中で高揚感が強くなった様子で、自然と笑みがこぼれていた。彼にとって事件捜査とは嗜好品なのだ。どんな快楽よりも、事件の謎や背景が解明されていくことに、喜びを覚える探偵であった。

「わたしは何も知らないんです。どいてください」

 駐在所の玄関で、女性の喉から血を出すような、疲れて枯れた声が上がった。

「もう、いいかげんにしてください!」

 怒鳴り声と共にマスコミを乱暴にかき分けで出てきのは、やつれた表情で猫背の女性であった。肩までのうねった髪と生え際の白髪が、さらにそのやつれた印象を強くした。

「岡本美枝子さんですね。ヘルパーの」

 弁護士を介すこともなく、春也はズカズカとヘルパーの元へやってくるなり、いきなり声を掛けた。

 若い男がマスコミの1人だと勘違いした岡本美枝子(53)は、明白な不機嫌を顔に浮上させた。

「わたしはなにもしてません。話すことはありませんから」

「被害者を発見した時の様子を聞かせてください」

 自分が勘違いされていることなどお構いなしに、自分の聞きたい用件だけを口にして話を進めようとする探偵。

「彼女は第一発見者です。取材に答える義務はありませんよ」

 弁護士バッチをつけた男の登場に、マスコミはひるんだ。

「話は場所を変えて」

 と、弁護士は堂々とした態度でその場を沈静したのだった。

「不和の美」ー9



 会議室。ヘルパー派遣事業所の建物の会議室に通された真田春也と古川栄太郎は、茶色いビニールが貼られたパイプ椅子に腰掛け、茶色い長テーブルを鋏み、向かい側に座るヘルパーの岡本美枝子と対面していた。

「わたし、どうなっているのか、なぜわたしが警察署に連れて行かれたかも分からないんですよ」

 あまりに衝撃的な半日を過ごしたせいか、言葉に覇気は微塵もなく、虫の羽音ほどの小さな声だった。危うく会議室の壁掛け時計の針の音に消されそうなほとだ。

「美枝子さん、落ち着きましょう。あなたは第一発見者として話しを聞かれただけです。犯人として扱われた訳ではありませんから、心配しないですださい」

 取り繕うように弁護士が汗を拭いながら美枝子を落ち着かせ、話を何とか聞き出そうとしていた。

 と、そこにドアをノックする音が聞こえ、1人の若い女性が入室してきた。事務員の女性である。彼女は2人の前にお茶を置いていく。

「僕はコーヒーが飲みたいなぁ」

 出されたお茶が自らの前に置かれるのを待たず、遠慮無く事務員の女性へ要望する。

 そんな客を相手にしたことがないのだろう、事務員は一瞬戸惑いの苦笑いをしてから、はい、と一言だけ残し会議室をあとにした。

 探偵の図々しさに呆れる弁護士とは正反対に、探偵は美枝子へ遠慮のない言葉をなげかけた。

「犯行時刻、午前5時から午前8時の間、貴女は被害者のお宅で朝ご飯の支度をしていたとのことですが、書斎へは遺体発見時以外、入っていないんですか?」

 まるで犯人に質問するかの如き言動に、美枝子は猫が怒った時のようにキッと探偵を睨みつけた。

「警察でもお話しましたけど、書斎はいつも鍵がかかっていて、荒木さん以外誰も入れませんでした。それに午前5時から6時の間はまだ事務所にいました。お宅に伺ったのは7時を過ぎてからです。
 古川さん、なんなんです彼は!」

 怒った様子で春也への怒りを顔見知りの古川弁護士へぶつけた。

 困った様子でまた噴き出す額の汗を拭いつつ、弁護士は探偵をみやった。

「美枝子さんは第一発見者なんだから、言動には気をつけてくれ」

 探偵はしかし弁護士の言葉など耳には入っていない。事件に対する興味で頭の中はいっぱいだった。

「警察は午前6時から午前7時の間って言ったんですね? となると検死結果が出て事後硬直の状態から犯行時間がその1時間に絞られたようですね」

 話を聞いているのか、と言いかけた弁護士に口すら開けさせず、矢継ぎ早に美枝子へ質問を投げかけた。

「美枝子さんは織部焼きをご存じですか?」

「はぁ?」

 唐突な質問にヘルパーは愕然となった。

「知りませんか? 元は戦国時代の武将でしてね。武将を止めて千利休の弟子となり茶人になった古田織部がですね、豊臣秀吉の命令で派手さを求めてたどり着いたのが織部焼きという焼き物なんですよ。
 そればかりじゃなくてですね、古田織部は一時期、時代の寵児でして彼の好みがこの日本のブームになることもあったんですよ。これは凄いことだと思いませんか」

 歴史に関心のない弁護士もヘルパーも口をアングリと開けるばかりである。

「それで美枝子さん、織部焼きをご存じで?」

 若者の再びの言葉に美枝子は首を横に振るしかなかった。

「焼き物のことは分かりません。荒木さんはお詳しいかたでしたけど」
 
「織部焼きはいくらの値段で取引されるかご存じですか?」

 知らないと答えたヘルパーがそうしたことをしるよしもなく、首をまた横に振るばかりであった。

 話にならない、とばかりに弁護士は事件についての質問へと話しを切り替えた。

「美枝子さんが義男氏の遺体を発見した時、なにか気づいたことはありませんでしたかねぇ?」

 美枝子は思い出したくもない事件現場の光景をフラッシュバックのように思い出しながら、考えた。けれども思い出せることはなにもなかった。

「分かりません。普段となにも変わりませんでした。ただ荒木さんか倒れていて、何かの破片が床に落ちていただけでした」

 美枝子の話を聞き終えた2人は、外で待たせているタクシーに乗り込んだ。

「結局、事件の手がかりになる話は聞けなかったね」

 探偵はしかし満足げに微笑んでいた。

「収穫は十分にありましたよ」

 キョトンとする弁護士。

「まず、美枝子さんは犯人ではありません。犯人はきっと織部焼きの価値、織部焼きの由来を知っている人物です。彼女は織部焼きを知りませんでした。嘘をついている様子もなかった。
 それと犯行現場の様子ですが、彼女の証言からすると、部屋は争った形跡も荒らされた形跡もない様子ですね。つまり、犯人は顔見知りの犯行ということになりますね」

 事件の概要が見えてきて、非常に満足そうに探偵は微笑むのだった。

























































「不和の美」-10

10

 昼時になりタクシーで町へ戻った2人は、町に二軒しかない食堂の内の1つ、商店街の中程にある小さい店構えの、おばちゃん2人で軽々する店の、一番端っこのテーブル席へ腰掛けた。

 元は白だったのだろう茶色い壁に張り出された、マジックの手書きメニューもやはり黄ばみがひどい。

「ここはなかなかおいしい店でね。君も好きなものを注文するといい」

 古川はそういうと、すでに決まっていたのだろう、小さいカウンターの奥で、先客、工事関係者の一団らしい男たちの食事を作っている、小さく丸まった白衣の背中2つに声を掛ける。

「鯖味噌定食を1つ」

 フライパンを振る手を止められないのか、あいよ、と大きな声は返ってきたものの、メニューをメモする仕草などは見られない。

テーブルの端に置かれた、お品書きの方に眼を通した真田春也は、一通り見ると同じくカウンターの背中へ声を発した。

「僕は天ぷら蕎麦を」

 同じくおばちゃん2人の声が返ってくる。

 水は入り口付近の色が焼けたサーバーからセルフで入れるのだろう、春也は立ち上がると自分の水だけを手に戻り、弁護士の顔を見やった。

「犯行時間、午前5時から午前6時というのは、この町の人たちにとっては、どういった時間帯になりますか?」

 事件の話しか興味の無い探偵が水を一口飲んで、質問をする。

「田舎の人間は起きるのは早いが、午前5時ともなると、家の中で起きていても、外へ出る人間は限られてくるだろうねぇ。
 農作業をする老人たちならばあるいは外出しているかもしれないが」

 と、弁護士は答え、自らも水を取り立ち上がった。

 唇に指先を這わせ、考え込む探偵。

「被害者はどんな方だったんですか? やはり犯人を探すには被害者の人柄を知る必要があります」

 厨房でフライパンが油で弾ける音がいっそう大きくなる。

 弁護士は眼鏡をハンカチで拭きつつ、少し沈黙して、脳内で被害者の人格を整理してから口にした。

 人間1人を簡単に説明するなど、難しいことである。

「さっきも言ったように頑固な人でね。自分が決めたことは貫く人だった。書斎もそうさ。自分以外は絶対に入れない。わたしすらも数度しか入ったことがないくらいだよ」

「交友関係の方はどうですか?」

 探偵は即座に問う。

「仕事関係は幅広かったね。それこそ日本全国に知っている人がいると言っても過言ではないほどに。しかし友達という側面から見ると、けして広くはなかった。自分の本音を口にできる人は居たかどうか」

「被害者は私生活では孤独な人間だった。骨董品に興味を持ち、書斎で常に自らの趣味に没頭する。なるほど・・・・・・」
 
 唇を触りまた探偵は考え込んだ。

「肉親は事情聴取を受けている息子の昭雄氏だけですか?」

「いいや、近い肉親がもう一人、町にはいるよ」

 そう答えたところへ注文が運ばれてきた。

「義男氏の亡くなった妹夫婦の1人娘で筒井美咲さんが町で居酒屋を経営している」

 弁護士は割り箸を取り、彼に渡しながら言う。

「ではその人のところへ食べたら向かいましょう」

 










プロフィール

HN:
富士島
年齢:
39
性別:
男性
誕生日:
1986/01/06
職業:
介護職
趣味:
小説、漫画、映画、PC、スマホ

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