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ミステリー小説、書く!!!

ミステリー小説です。 毎週1回のペースで更新しますので、良かったら読んで感想をください。

スキマ時間にはビジネス書を「聴く」。オーディオブックのFeBe

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「不和の美ー21」

21

 真田春也は収穫に心躍らせる一方、もう1つ、確かめなければならないことがこの事件にある、と同じ隣町のアパートへ向かった。

 事件が起こった田舎の町よりは少し栄えてはいるものの、駅は平屋のようなたたずまいで、そこからまっすぐに伸びる商店街も今はシャッターが閉まっている店の方が多かった。

 飲み屋が建ち並ぶ細い路地を抜け、メインの通りと言えるその商店街へ出て、駅とは真逆に進み、商店街の外れの小道を入ったところに、小さいアパートがある。そこが彼の目的の場所であった。

 階段を上り2階の端の部屋の前に彼は立った。今時みない木目の扉は、鍵を直接さしてドアノブをひねるタイプだ。

 インターホンはついているらしく、押してみると、部屋の中でポンポーンとレトロな音が響いた。

 すぐに人の気配が玄関へ向かってくるのが分かった。

 扉が開き、男が顔を出す。筒井美咲の居酒屋で見た佐藤誠である。

 最初、客人だと思い笑みで対応した佐藤誠であるが、真田春也の顔を見た瞬間、表情は凍り、すぐに薄い扉を閉めようと、ドアノブを内側へ引いた。

 春也はそこへ体をねじ込む形で扉の開閉を邪魔した。

 当然のことながら春也の体は扉に挟まり、胸と背中に鈍痛が走る。

「うっ」

 息が詰まった探偵の声に、思わずドアノブから手を離す誠は、胸を撫でる探偵の顔を心配そうにのぞき込んだ。

 これに対する探偵の言葉は、もちろん事件に対する物でしかなかった。

「筒井美咲さん、荒木義男氏について、聞きたいことがあります」

 事件の為、自らの解決への欲求を満たす為、春也はその体を喜んで犠牲にする。

 お世辞にも広く綺麗とは言えない男1人の暮らしは、質素で生活感が大きかった。

 台所のゴミ袋に詰め込まれたカップ麵の器。洗濯機の前に山になった洗濯物。部屋の中心にあるコタツの上にはビールの空き缶が並び、食べかけのピーナッツや食べこぼしの後が見えた。

 この男は仕事以外は飲食をするのみなのはすぐに観察すれば分かった。

 部屋の中に入ると埃を軽く被った座布団を手で払い、誠は狭い部屋の床の上に座布団を差し出した。

 春也はそれに座るなりお茶を入れようとする男を引き留めた。

「聞きたいことを聞いたらすぐに帰りますから、お茶はけっこう。それよりも聞かせてください」

 と前置きもなにもなく探偵は質問を直球で投げつけた。

「町の噂は知っています。貴方が筒井美咲さんを慕っている。そして付き合う事を荒木氏に懇願したが断られた。この噂は事実ですか?」

 居酒屋で伊美徹の建設会社の女性従業員が話していたのを探偵はしっかりと覚えていた。その他にも小さい田舎の町では、殺人事件などという大きな出来事が起これば、自然と噂は耳に入ってくるものだ。例えそれが探偵のように外部の人間の耳でもだ。

 佐藤誠は少し間を置いた。自分の中でこれまでの行動をしっかり整理しようとしていたのだろう。春也が見ても何かを必死に考えているのは分かった。

 そして結ばれた薄い唇を男は開いた。

「ええ。事実です」

 これに矢継ぎ早に探偵は質問をかぶせた。

「犯行時間のアリバイを聞かせてください」

 犯人である可能性がある以上、彼の興味はだんぜん大きくなる。

 佐藤誠は少しまた考えてからだ口を開く。

「出勤前の時間ですから朝食をとって、身支度をしていました。これは警察の人にも話しました。丁度あの日は隣人の奥さんが朝早くにアパートの会報を届けにきたので、顔は合わせていますからアリバイは間違いありません」

 また1つ、収穫した春也は、少し興奮を溜息で抑えるように呼吸した。そして個人的な疑問を口にした。

「荒木氏と美咲さんのことについてもめたという噂も事実だと?」

 アリバイが立証されているのだから、探偵の仕事は終わりだ。だが探偵にとって恨みによる犯行を省くことはできなかった。動機がある人物は疑わずにはいられなかったのだ。

「本当です。俺は美咲さんと付き合うことを荒木さんに認めてもらおうと、家に行ったんです。難しい人物なのは承知していました。ですが最初はあってさえもらえず。何度も訪ねたんです。そしてようやく会ってもらえたのですが、あっさりと玉砕でした。俺の本気の気持ちを伝えたんですけどね」

 そういうと恥ずかしげに男は微笑んだ。50代も見えてきた男にしては、思春期のような笑みであった。

 
 そうした恋模様に一切の興味を持たない探偵の興味は、もっぱら事件の事柄だけだ。

「愛する人との付き合いを反対され、殺意を抱いた?」

 笑みがすぐに困った硬直した表情へと変化する佐藤誠。

「ち、違います。逆です」

「逆?」 

「俺が美咲さんのことを好きなのは分かった。だが今のお前は養えるのか。男は女を守らないといかん。それがお前にできるのかって。正直、胸を張って守れますっては言えませんでした。だから自分の甘さを知ったというかなんというか。本当に情けない男ですよ」

 佐藤誠はハニカンでいたのだが、探偵にはなるほど、納得した。

 この男に人を殺すことはできない。今の話と表情で探偵は確信を得た。

 だが最後の質問は避けることはできなかった。

「佐藤さんは織部焼きというのをご存知ですか?」

 不思議そうに顔を上げ、訝しく探偵へ逆に男は質問した。

「なにかのお菓子ですか?」

 まったく知らない様子なのはそこ言葉で理解できた。

 その時、上着の内ポケットに入れていたスマホが唸るようにバイブレーションで電話だと探偵に伝えた。

 素早くとって画面をみると、それが古川英太郎弁護士からだった。

「古川さん、どうしました?」

 脳天気な声で答えた春也とは裏腹に、弁護士の声は、緊迫していた。

「君は何をしてるんだ!」

 なんのことなのかわからず、キョトンとしていると、彼の行動が起こした余波を弁護士は伝えた。

「怪しい男が事件について聞きまわってるって警察に通報があったそうだ。今、三田警部がやってきてすごい剣幕だ。すぐに帰ってきたまえ」

 これに飄々も探偵は答えた。

「分かりました。ただもう一ヶ所よるところがあるので、少し遅れます。それと、三田警部と一緒に美咲さんの店で待っていてください。それではあとで」

 と、一方的にスマホを切ると、佐藤誠の部屋を出ようと彼は立ち上がった。

「あ、あの。美咲さんになにかあったんですか?」

 恋する女を心配そうにしている男。

 それに向かい、無表情で探偵は言った。

「真実が万人にとって幸福な結末をもたらすとは限らない。それだけは覚えておいてください」

 そして探偵は最後の仕上げに向かうのだった。

第22回へ続く

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「不和の美ー22」END

22

 出汁のいい香りが店内を包んでいた。筒井美咲の居酒屋では、ちょうど営業の準備を始めていた。

 旬のカブをつかったカブラ蒸しを美咲は仕込んでいたのである。

 カウンターに座り、美咲がいれたほうじ茶を飲みつつ、三田警部は腕時計の針を気にしていた。

「古川さん、もういい加減帰ります。私も暇ではないのでね」

 隣の席の背もたれにかけたコートを手に取ろうとする三田恭一警部。

「今、カブラ蒸しが仕上がるので、よろしかったら味みなさいません?」

 のれんの奥から和服に割烹着姿の筒井美咲か、香る笑顔を警部へ向けた。

 この良く言えば愛想の良い、嫌味を言葉に混ぜると男を惹きつける彼女の笑顔は、例外なく三田警部の帰ろうとする脚を、その場に止めさせた。

「事件で忙しいのに、申し訳ない」

 お茶を飲みつつ、額の汗を拭いながら、古川栄太郎弁護士は、小さくなっていた。

「呼びつけておいて、失礼なやつじゃないか」

 警部は美咲の笑顔に胸を焦がしたかと思いきや、やはり呼び出した若者が姿を現さないことへ苛立ちを禁じ得ない様子だった。

 警部の不満は沈静化しない。

「事件現場へ土足であがる。事件を勝手に嗅ぎ回り関係者から通報される。迷惑ですよ」

 警察官として腕組みしながら、弁護士へ苦情を申し立てた。

「申し訳ありません。ですが警部。彼は事件に対する妙な嗅覚をもっていましてね。最初は私も不愉快に思いました。図々しいですからね。ですが事件に関して間違いなく、彼は何かを掴んだのだと思いますよ」

 これまでの経験から、若い探偵がなにかを把握し、それが事件解決への大きな布石になることを、半ば確信めいて弁護士は断言した。

 するとそこへ店の扉を開けて、ほぼ探偵本人が、見るからに重い足取りで入店してきた。

 深刻な表情は、探偵が大きなものを含んでいるのが理解できた。

「いらっしゃいませ。また寒くなってきましたね」

 相変わらずの様子で美咲は、彼の好みのコーヒーをそっとカウンターに置く。

 どっかと疲れた様子で腰を下ろした真田春也。

 温かいコーヒーを喉に少し流して、枯れ葉が詰まったような首元を潤した。

「落ち着いているようたが、警察官を呼び出すとは、何を考えているんだね、君は」

 待たせた人物のことなどまったく眼中にような若者の様子に、憤慨して三田警部は、軽く怒鳴るように言い放った。

 店の空気がピンと張り詰めたのに、かまうことなく探偵はまたコーヒーを一口のみ、それからようやく警部の顔を見据えた。

「今から話すことは、あくまで俺の主観で捜査を混乱させる意味でお話するわけではありませんから、それだけは理解してください」 

 そういうと古川弁護士、筒井美咲を一瞥した。

「まず事件が起きた時間帯に、関係者でアリバイがない人間はいませんでした。犯行は関係者ではなく物取りの犯行と警察はみたてていたでしょう。そうですね、警部」

 警部は若者に促されたのを不服に思ったような顔をして、嫌味にうなずいた。
「アリバイがあり裏付けもとれている。現場の状況から判断して物取りの犯行であることはまず、間違いない」

 警部は断言した。

 春也は頷いて頸部をみやった。

「その根拠は?」

 急に鋭くなった青年の顔に、一瞬戸惑いの顔をするも、警部は即答する。

「犯行時刻、付近で不審な男の目撃情報も上がってきている」

「タクシーの乗務員の証言ですね。俺も聞きましたよ。ただ今回の事件の真相へ迫るとき、警察も俺自身にも、思い込み、があったんじゃないかと思う」

 警部を責めるわけでもなく、静かに探偵は言った。

「殺害された荒木氏が資産家だったことから、金にまつわる、あるいは恨みによる殺人だと誰もが思った。そして恨みのある人たちに話を聴いて、全員にアリバイがあった。犯人は目撃証言から男だと断定。そこから思い込みは始まっていたと気づいたんだよ」

 すべてを思い込みだと探偵は断言する。

 警部が自らの捜査に誇りを持っているのは当然であり、探偵の言葉に激高する素振りを見せた。

 が、探偵は口を早く、自らの仮説を中断されるまいとする。

「まず、犯行時間に目撃された男を、どうして男だと断定できる。顔は帽子をかぶっていて見えなかった。男の格好をしていたから、犯人は男だ。皆、そう思い込んだ。女性が男の格好をしていた可能性もある」

 だんだんと春也の声は声量を上げた。

 横に座る弁護士はこのとき、なにかに気づいた顔をしたが、春也は止まらない。

「次にアリバイ。全員のアリバイ確定していて、裏付けもとってある。もちろん警察に落ちどはない。証言している本人も思い込みで証言していたんですから。
俺はここに来る前に、町の酒屋によって来ました。荒木氏が殺害された時刻、酒屋の店主派この居酒屋に酒を届けたと証言しました。美咲さん、そうでしたね?」

 探偵の若い目が料理の下ごしらえをする女将に向けられた。

「君は美咲さんを!」

 立ち上がった三田栄太郎は、自らが連れてきた探偵を、睨みつけた。

 しかし動じることなく、筒井美咲を探偵はみやった。

 菜箸を静かに置いた美咲は、ゆっくり甘い香りのする微笑を浮かべた。

「私はあの時、居ませんでした」

 驚いた警部は、

「だが酒屋の店主はーー」

 と、呆然とする。

 探偵は自分が探偵した酒屋の店主の証言を口走った。

「店主は頑なに美咲さんは居たと言っていた。だけど目撃した時の様子を聞いた時、あるルールがこの居酒屋と酒屋にあることがわかったんです。美咲さんがいるときは店の玄関を開けて、いないときには鍵をして、改めて配達をする。つまり美咲さんがいたか居ないか、店主はあの日、目撃したというわけではなかったんです。居酒屋の扉が空いている、つまり美咲さんがいる、そう思い込んだだけだったんです」

 この新しい証言に、古川弁護士が血相を変える。

「居なかったから犯人とは限らないではないか。第一、叔父である荒木氏を殺害する動機が美咲さんにはない」 

 裁判の弁護人のように、春也の弁舌を否定した。

 素早く弁護士の顔を指差し、弁護士がいう主張を否定した。

「主観は捨てるべきですね、三田さん。恨みによる犯行と誰もが思います。俺もそう思ってました。だけど犯行現場の織部焼をずっと見てて気になってたことがわかったんですよ」 

 そういうとスマホを取り出して画像を提示した。そこには抹茶のような色合いの陶器が映し出されていたが、下部がひび割れていた。
「織部焼 ひび」の画像検索結果
「美咲さんはこれをどう思います」

 と訪ねられ、筒井美咲は不思議そうな顔をした。

「直感的で構いません」

 促されて美咲はうなずく。

「素敵だと思いますけど」

 それを聞いてすぐに同じ画像を警部、弁護士に探偵は見せた。

 2人は不思議そうに探偵を見る。

「織部焼の始祖、古田織部にはこういう逸話があります。
師匠、千利休が捨てようとした茶道具を受け取ったと。それはお茶をすくう木の道具なのですが、そこにフシがついていて、完璧を求める利休は嫌いました。しかし織部はそれを美しいと呼び、後に『破調の美』というのを確立した。破調、つまり美には一定の美しさがある。シンメトリー、調和のとれた美しさ。万人が美しいものに古田織部は真っ向から立ち向かった。千利休亡き後、新しきことをせよ、という千利休の教えを受け、織部は常に新しい美を追い求めた。その道は時の将軍徳川秀忠をも魅了し、弟子としている。武将として、時の流れを読む才覚のあった織部は、茶人としても優れた嗅覚を持ち、自らの好み〈織部好み〉は日本中でブームを巻き起こした。破調にこそ新しく真の美しさを古田織部は感じたのです。
美咲さん。貴女もそうなのではありませんか?」

 歴史の講釈を聞かされた弁護士と警部は、美咲をみひった。

 彼女は静かに白い喉を上下に動かすと、また甘い微笑を浮かべた。

「叔父は誠さんとのことを許してくれたんです。彼ならきっと私を幸せにしてくれるって言ったんですよ」

 2人の関係を荒木氏が認めた事実に、古川弁護士にとって意外だった。荒木氏は自分の意見をけして変える人間ではなく、まさしく頑固一徹をそのまま人間に置き換えたような人であった。だから近所の人と付き合いがなく、息子とも関係性がうまくいっていなかった。

 その荒木氏が態度を軟化させるというのは、古い付き合いの弁護士には、考えられないことだったのだ。

「なぜ、それなら荒木氏を。いや、まだ断定したわけでは」

 弁護士が美咲にいうも、自分が美咲を犯人だとした言葉に、うしろめたさを感じた。

「いいんですよ、古川さん。叔父を殺したのは私です。私がこの手で」

「まってください、動機はなんなんです。佐藤誠との関係が認められたのなら、被害者を殺害する意味は?」

 三田警部が警察官として、三田恭一個人として、動機がはっきりしない事態に、当惑をかくせずに、美咲を問いただした。

 彼女は考えた。自分でもあの時のことを追憶したのである。

「なんでしょうか? 私は叔父がすべてを否定して、不完全な関係性が続くのを、きっと美しく思っていたのでしょうね。古田織部のように、破調に美しさを感じたのかもしれません」

 そういうと下ごしらえ中の鍋のガスを消して、カウンターから出てくると、警部の近くに近づいて行った。

「連れて行ってくださいますか?」

 最後の彼女のその笑みは、これまでになく美しく、静かな丘に咲く野花のようなすがすがしさもあった。


エピローグ

 パトカーが遠ざかっていくのを居酒屋の前で見送る若い探偵と弁護士は、騒ぎを聞きつけて動揺の顔色がそれぞれに浮かぶ群衆の中で、事件の終わりを見つめていた。

 赤い光が遠ざかっていくと、自然とその場から波が引くかのように人が家路に帰っていく。
 
 制服警官が居酒屋の前で現場検証の準備をしている。

 まだ呆然と現実を受け入れられずにいる古川栄太郎は、いまにも倒れてしまいそうな蒼白な顔色で夜風に吹かれていた。

「君は、君はどこで美咲さんが犯人だと」

 ポケットに手を入れ、肌寒くなってきた春先の夜の空に、白い息をあげた。

「だから言ったでしょう。今回の事件は思い込みだったと。荒木氏の書斎には誰も入らなかった。筒井美咲さんも書斎には入ったことがないと言っていました。ですが、あの書斎の電気のスイッチは部屋の入口にはなかった。誰もが部屋の電気のスイッチは壁際にあると思いますよ。しかし書斎は荒木氏が改装して、デスクの横に電気のスイッチがあったんです。彼女は俺が部屋に入った時、迷うことなく電気のスイッチを入れて、それでもなお、書斎には入ったことがなかったと断言しました。だから彼女を犯人だと考えたんですよ」

 そういうと事件の終わりをゆっくりとかみしめるように、さらにつぶやいた。

「人の美意識とはわかりません。何が幸せか、幸せでないかなど、他人の価値観で決めつけるものではないんです。美咲さんの幸せは輪郭の歪んだ不完全さにあったのかも」


「不和の美」 完

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筆者あとがき

あとがきとはおこがましいのだが、初めての探偵小説を書いた感想を少し述べたいと思います。

筆者は正直、ミステリー小説をあまり読みません。主にSFや時代物の伝奇、ファンタジーが多く、ミステリーも本棚にいくつか並んでいますが、多くはありません。

それでも探偵という存在には昔から憧れがあり、こうして初めてのミステリー、初めての探偵小説を書くこととしたのです。

しかし小説にミステリー要素、謎要素を入れるのは好きではありますが、それを主人公が論理的に解決するというのを書くのが非常に難しかった。

特に有名な作家の皆様のミステリー小説の出来栄えは恐ろしいほど高く、短編であっても読者をひきつけ、それでいて伏線をはり、犯人を推理させる仕掛けは素晴らしい。さらに大がかりなトリックを考える作家さんはさらにそれを考える頭脳が必要です。

それでも筆者の中には、ある種、探偵を書きたいという欲求があり、こうして書くことに至ったわけです。

真田春也という人物は、どこか失礼なところがありますし、事件のことしか頭にありません。だから事件を客観的にみることができるのです。

作者としてはもっと真田春也を失礼な人間にしたかったのですが、小心者の作者にはあまりずけずけとしたキャラクターは書けないのかもしれませんね。

歴史が個人的に好きなので、歴史を交えた物語にするつもりではありましたが、今読んでみるとあまり歴史が関与していない気もします。

いずれにしてもこのブログ上にはこれからも複数の作品をアップする予定でいますので、長い目で見ていただければ幸いです。

ほとんど言い訳のようなあとがきでしたが、次回の作品を読んでいただけたら幸いです。

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本ということで前に読んでいた漫画が映画になったので、おすすめします。
アニメ版も面白かったですよ。




【殺人パーティ】

関連画像

『殺人パーティ』 

 事件が発生したのは、ニューヨークセントラルパーク沿いにあるアッパーイースト地区の一室で起こった。  

 このアッパーイースト地区は、ニューヨークの世間一般の金持ちが住む地区であり、憧れの場所となっていた。その一角にある家の一室、ホームパーティ中に、主催者のジェームズ・バニングスが殺されたのだ。  

 すぐにニューヨーク市警の警察官が駆け付け、家は封鎖され、パーティの出席者全員に事情聴取が行われた。  

 被害者ジェームズ・バニングスは証券会社に勤め、社交的でこうして知人を集めたパーティを主催するのが趣味のような、人のいい人物であった。

 彼の遺体はキッチンで発見され、背中からキッチンにあった肉をさばく長い包丁で刺されており、心臓まで一直線に背中を貫いていた。

 キッチンに当時、招待客は出入りしておらず、カクテルを作りにジェームズが一人、キッチンに居た。

 招待客の人数は20名。室内に荒らされた形跡はなく、金品の紛失もなかったこと。招待客が不審な人物を誰一人見ていないことから、20名の客の中に犯人がいると殺人課の刑事たちは考えた。

 そんな中、招待客たちは声をそろえて、犯人はメリッサ・キャンベルだと主張した。

 メリッサはジェームズの同僚である。しかし社内では有名なほど二人は不仲であった。不仲のきっかけは、彼女が彼の顧客を奪ったというのだ。証券会社としては、利益をあげることが最大のノルマとされているが、メリッサはあくまで噂だが顧客と肉体関係を築くことで、彼から顧客を奪ったというのだ。

 この一件から二人は度重なる口論をしている。これは同僚たちが何度も目撃していた。

 犯行時刻、キッチンの方向から「メリッサ、やめて!」という声が聞こえていた。その後、駆け付けたジェームズの同僚が遺体を発見していた。

 この声が誰だったのかはわからないが、メリッサが有力な容疑者となった。

 刑事たちはパーティに出席してたメリッサに事情を聴くと、犯行時刻、彼女はトイレに居たというが、誰も目撃者はなく、遺体発見後の混乱から、彼女がトイレから出てきたのを目撃した人物をいなかった。

 アリバイがないことから、彼女を連行する刑事たち。

 しかしそれを止めたのは、小柄な猫背のアジア人の青年であった。

「彼女は犯人ではありません」

 小声の流暢な英語で刑事を止める青年は、織田レイヴと名乗り、顔からしてハーフと思われた。

 アジア人の小柄な男が生意気な、と黒人の大柄な刑事が彼をどかそうとするも、彼はのらりくらりと太いその腕をかわす。

「彼女を連行するのは冤罪を招きます、やめてください」

 無表情な彼の言葉に、不気味なものを感じた刑事は、彼女が犯人ではない根拠を彼に尋ねた。

 すると織田レイヴはトイレの方へのっそりと向かうと、小さいビニール袋を持ってトイレから出てきた。

「彼女は生理中です。トイレに居たという証拠になるのではないですか?」

 刑事が怪訝そうにしていると、メリッサは赤面して青年から袋を奪い取り、バックの中に押し込んだ。

「誰か違う人物のものかもしれないではないか」

 そういう刑事の言葉に青年は言い返す。

「その織物はまだ暖かい。つまりさっき彼女が言った通り、トイレに居たということになります。織物は一つしかなかったので、他の方のものではないと思われます。調べていただければわかると思いますが」

 警察官たちがすぐに他の女性たちに聞くと、確かに生理中の人物はいなかった。

 だがそれでアリバイが成立したとは考えられなかった。もちろん青年もこれでアリバイが成立したとは考えていなかったのか、細い指を一つ立てて、刑事にいう。

「事件現場に基本はあります。現場に一度戻りましょう」

 というと青年は制服警官の静止をのらりくらりと避けて、キッチンへと到達した。

 ジェームズの遺体はまたそこに横たわっていた。まだ鑑識が遺体や事件現場を捜査していた。

 英語でまくしたてる捜査官を横目に、現場に抜き足で入る青年は、眼を見開いてうつ伏せに倒れているジェームズを見下ろした。背中には肉用の長い包丁の柄が立っていた。

「犯人は人体に詳しいようです」

 遺体を見るなり青年は言った。

 刑事が根拠は、と言いたげに青年を見ると、青年はすぐに答えた。

「通常、人は人を包丁で指すとき、刃を縦に持ち、突き刺します。もちろん腹部や背中の柔らかいところならば、刃は通るでしょう。しかし今回は心臓めがけ一突き。つまり肋骨の間を抜けて刃を横にして突いています。骨を断つのが難しいと理解している人物が犯行を行ったということです」

 口ばやに言う青年。

 刑事が視線で鑑識に説明を求めると、鑑識捜査官は、青年の説明が正しいと頷いた。

「ならば犯人は限られてきます。人体、あるいは動物の肉体構造を勉強したことがのでしょう。経歴を調べればすぐに分かります」

 刑事は急ぎ、制服警官に全員の経歴を調べるように命令した。

 レイヴは遺体をじっと観たあと、急にキッチンを出てリビングに移動した。

 そこには待機を命じられた招待客たちが待機していた。

「刑事さん、僕もこの場所で声を聞きました。メリッサ、と確かに声は言っていました。ですがさっきも説明したように、メリッサは犯人ではありません。これは故意にに誰かが犯人をメリッサにしたてようとした、基本的心理作用を利用したものです。メリッサが犯人だと大声で叫ぶことで、自分から注意をそらすためのトラップですよ」

 まくしたてるように言うと、今度、アジア人の男は2階へと駆け上がっていく。

 刑事たちも慌て、現場を荒らされるのではないか、と絨毯がしいてある階段を駆け上がった。

 彼は被害者ジェームズの寝室に居た。

 特に物に触ることもなく、じっと部屋を見回していた。

 几帳面な性格なのだろう、ジェームズの部屋は綺麗に整理されていた。

「刑事さん、クローゼットを」

 階段を駆け上がったことで肩で息をする刑事に、クローゼットを開けろ指示する。

 刑事はムッとしながら若い制服警官にクローゼットを開けるよう、太い指で指示をした。

 クローゼットにはスーツ、普段の衣服、家で着る衣服がキチンと整理されており、足元には靴も綺麗に整頓されて磨かれ並べられていた。

 すぐにレイヴは刑事の顔を見た。

「刑事さん、ジェームズは同性愛者ですよ」

 訝しげにレイヴの顔を見る刑事は、

「何を根拠にいうのかね」

 と捜査を混乱させる彼の言葉に不機嫌な対応をした。

「靴を見てください。綺麗に揃った靴に違和感を感じませんか?

 刑事がいくつも並ぶ革靴を見ると、先がバラバラに並んでいる。

「サイズが違う靴がいくつも」

 ハッとした刑事が並んだ衣服を何着か見ると、サイズが違う服がいくつも並んでいる。

「この家にはもう一人、男が暮らしていた」

 人差し指で刑事を指し、レイヴは頷いた。

 次にレイヴは寝室を出て向かい側の書斎に入る。

 無数の金融関係の本が並ぶ部屋の真ん中には高級家具と思われる木製のデスクが置かれていた。

 デスクの上も綺麗に整頓されていたが、ただ1つだけ、腕時計が置かれていた。

「高級腕時計」の画像検索結果

 レイヴは刑事の胸ポケットに刺さったペンを素早く抜き取ると、腕時計をひっくり返す。

 高級な時計なのはすぐに理解できた。某有名メーカーの時計だ。その裏側に何かを見つけたレイヴはアジア人特有の細長い眼を見開き、急に駆け出した。

 廊下を素早く抜け階段を駆け下り、リビングに集められた客たちの中に雪崩のように押しかけ、接待客をかきわけて誰かを探しているようだ。

 この世界中から集まった人物たちの中で、アジア人の身長は特に低く、また慌てて階段を降りた刑事たちは、レイヴを見失ってしまった。

 しかしすぐに彼の姿は発見できた。客の中から声が上がったからだ。

「な、何をする」

 声の方を一斉に客も刑事たちも視線を弓矢のように素早く向けると、小柄な白人の腕を掴んで、その腕から腕時計を奪おうとしている。

 白人は拳でアジア人を殴りつけようとするが、逆にその腕を掴むと、白人の身体を空中で一回転させ、絨毯の上に横倒しにしてしまった。

 刑事がその一瞬の光景に呆然としていると、刑事の胸元に弧を描き腕時計が飛んできた。

 慌て、刑事が腕時計を受け取る。

「刑事さん、時計の裏を」

 高級腕時計の裏にはメーカーのロゴや型番が描かれているのと同時に、自分で傷つけたのだろう、ジェームズと書かれていた。

「2階の書斎にあった腕時計にも同じように書かれていましたよ。マイクと」

 倒れた男の名はマイケル・フライグという同じ証券会社の同僚だった。

 掴んだ腕をレイヴが離すと、制服警官たちがマイケルの身体を起こし、両腕を掴んだ。

「僕が何をしたって言うんです。彼と付き合って居たからって、罪なんですか。この国は同性愛者を差別するのか」

 大声を張り上げるマイケル。

 そこへ制服警官の一人が刑事に近づき、なにかを耳打ちした。

「マイケル・フライグ。君は大学で医学を志していたそうだね。つまり人体に詳しいわけだ。肋骨のどこを突き刺せば心臓に包丁が刺さるか、知識があるようだ」

 これにマイケルは顔を真っ赤にして叫んだ。

「ジェームズがいけないんだ。僕と別れて、メリッサを選ぶって言ってきて。僕は純粋にジェームズを愛していただけだ。だから殺したんだ、美しい思い出が消えないうちに」

 困った顔で刑事が制服警官に手を振って連れて行くように指示すると、犯人のマイケル・フライグは連行されていった。

 刑事は頭をかきながら招待客の中を織田レイヴの前までゆっくり歩いてきた。

「ジェームズは同性愛者じゃなかったようだ」

 レイヴは首を横に振った。

「彼はバイセクシャルだったんですよ」

 刑事はなるほど、と頷きながら、

「危うく誤認逮捕するところだった。助かったよ」

 と例を言った。

 アジア人はそう言われても、無表情だった。

「ところで1つ質問なんだが」

 刑事がアジア人を見下ろし、分厚い鼻頭をかき、

「お前さんは何者なんだい」

 事件を即座に解決した推測、洞察力で何者なのかを知りたくなった刑事の問に、アジア人の彼は無表情に答えた。

「ジェームズの友達。仕事はただの探偵です」



 
『殺人パーティ』 完

シャーロック・ホームズ

前回のブログ 【殺人パーティ】

ミステリー、探偵と言えば

「シャーロック・ホームズ」


その昔、図書館に行けば必ず「シャーロック・ホームズの冒険」が置いてあったものである。

シャーロックは今もなお、人気の書物なれど、出版当初からその人気は絶大なものであった。

シャーロック・ホームズが出版された数年後には、当時、まだ珍しかった活動写真、つまり映画になり、これまでに幾人ものホームズを映画、テレビで演じた俳優の多いことか。

そこまでしてホームズとは愛されるべきキャラクターなのだろうか?

管理人はこのホームズという人間を、正直、いいやつとは思わないし、読んでいる人々も、けして満場一致で善人とは言わないだろう。

まだ法律で薬物が規制される前の作品なので、ホームズは退屈になると、薬物に走る傾向にある。

これはワトソンが何度も見ているので、確かなことなのだが、物語の主人公が薬物中毒というのは、面白い人間性ではないだろうか。

実は、原作者のコナン・ドイルはホームズを好きになれなかったのだ。

そのため、作品を早く終わらせたかった。

しかし新聞に連載されたシャーロック・ホームズは、あまりの人気で、作者単独の判断では終わらせられなくなった。

そこで何とかホームズを嫌われようとして、こうした設定をつけたのではないだろうか。

その後、ホームズはモリアーティ教授と滝つぼに落ちて、ようやくドイルは呪縛から解放されたと思ったのだが、読者からどうして殺したんだ、という書簡が殺到したらしく、しかたなくまた連載を再開したという経緯がある。

そのせいなのか、ホームズには呪いがある、という噂まであるほど、ドイルはホームズを嫌っていたという。

最近では舞台を現代のイギリスにした「シャーロック」が大ヒットし、次のシーズンが望まれているほどの人気だ。

これほど愛され、人気のある探偵もいないのだろう。



プロフィール

HN:
富士島
年齢:
39
性別:
男性
誕生日:
1986/01/06
職業:
介護職
趣味:
小説、漫画、映画、PC、スマホ

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